お山の妄想のお話です。




恋…


俺は智君に恋してる


その事実に気付いたら今までの自分の行動や

拘りが理解できた。


ずっと近くにいたのは離れたくなかったから

で、朝のお迎えは子供の頃からの習慣でもあ

るけれど本当は朝一番に智君に逢いたかった

からなんだ。


自覚し今までの行動を振り返れば、全てが納

得できる。


『依存なんかじゃなかった~』


と喜ぶべきか………

いや、これは更に悪い事態になったのではな

いだろうか…


だってそうだろ?

俺は智君に恋してるんだぞ、あの智君に!

幼馴染みで、親友で、男の、智君に!!


普通は恋愛って異性とするんじゃないのか?

種の保存はDNAに組み込まれているはずだ、

なのに……

俺はおかしいんだろうか?



役員会議中ずっとそんなことを考えていた。

会議が終わり一人でさっさと帰ろうと思って

いたのに、茂部さんが一緒に帰ろうと言って

きたのでしょうがなく了解した。



帰り道を二人で並んで歩く。

茂部さんは何故かテンションが高く、物凄い

笑顔で話しかけてくるが俺の頭の中は智君と

恋の文字がグルグル回っていて、正直なとこ

ろ今は彼女のお喋りに付き合う余裕はなかった。

適当に相槌を打っていたが、彼女は上機嫌で

それを気にすることもない。



「じゃあ、さよなら」

「 あ、櫻井君!もう少し話していかない?」

「はあ?!」


やっと彼女と別れる場所に着き内心ホッとし

ていると、彼女がおかしな事を言いだした。

あれだけ話してもまだ足りないというのか、

呆れると同時に辟易した。


「ごめん、早く帰らないといけないから」

「用事があるの?」

「ああ、智君の家に寄っていくんだ」

「大野先輩の所に…」


彼女から笑顔が消え一瞬眉を寄せた不機嫌な

表情になり、それから拗ねたような顔で俺を

見上げてきた。


「櫻井君は、私と先輩どっちが大切なの?」


そんなの智君に決まっている。


即答しそうになったがこらえた。

そう言ってしまえば、この後の展開が非常に

面倒臭くなる事が確実に予測できたから。


俺は馬鹿じゃないから、よくこんな場面で使

われる女子の常套句に本心を明かしてはいけ

ないことも分かっていた。

でも『君に決まっているだろ』なんて心にも

ないことも言えない。

ならば差し支えない返事をしよう。


「そんなの、わかってるだろ?」


どうにでも受け取れる言葉。

我ながら狡い奴だと思うけれど、今はそれし

か思い浮かばない。

とにかく俺は早く智君に会いたい、だから彼

女にはとっとと帰って欲しかったんだ。


「……うん」


畳み掛けるように智君にイケメンと称される

顔でニッコリ笑いかければ、彼女は頬を染め

て頷いた。

多分絶対に誤解しただろう、けれどなんとか

切り抜けられたようなのでよしとする。


「それじゃあ」


再び挨拶をして彼女と別れた。

俺は智君の家に向かい歩くが、気が急いてど

んどんとスピードが上がり最後にはダッシュ

していた。


智くんに逢いたい

逢ってお迎え拒否の本当の理由を知りたい


そして、

俺のこの気持ちが勘違いじゃないのかを確か

めたい……


幼馴染みの親愛の情やいきすぎた友情と『恋

』を思い違いしているのかも…


そうであればいいと思う。

だって本当に俺の想いが『恋』なら、この先

智君との関係が変わってしまう。


想いがバレたら『気持ち悪い』と離れて行く

かもしれない。

冷たい目を向けられ、笑顔もなくなり、話し

もしてくれなくなる…


今までの『おはよう智君』から『おやすみ智

君』までの日常が失くなるんだ


そうなったら……

俺は耐えられるのかな……





智君の家に着いた。

今は自覚した恋心より、どうして一人で登校

すると言い出したのか訊く方が先決だ。


俺のせいで嫌な目にあったと言うのなら謝ら

なければいけないし、問題を解決し智君に愚

行を働いた輩に報復もしなくてはならない。


……………とにかく、逢いたい。


マドンナに微笑みかけたように、俺にも笑顔

を見せて欲しいんだ。

だって、智君は朝から一度も俺に笑ってくれ

ていないから…




智君の家のインターホンを押すと、すぐにお

ばさんの声がした。


『はい。あら?翔君、どうしたの?』

「こんばんは、智君はいますか?」

『智はさっき友達の家に行くって出掛けたけ

ど…』

「そうですか……いつ頃帰るかわかりませんか?」

『ごめんね、聞いてないの。帰ったら連絡さ

せましょうか?』

「あ、大丈夫。後で俺からします」

『そお?じゃあ翔くんが来たことは言ってお

くわ』

「お願いします」



話が終わり自分の家へと向かう、振り返り

見上げた智君の部屋の電気は灯っていない…

留守なんだから当たり前だけど、とても淋し

い気持ちになった。


何時も俺の帰りが遅い時は、あの窓から顔を

覗かして『翔くんお帰り~』とふにゃふにゃ

笑って言ってくれるのに……


淋しい…………けど、疑問がわく。

こんな時間に訪ねる友人って誰だ?

俺の知ってる奴か?

それとも知らない奴?

どちらにしても誰に会ってきたのか訊かない

と……


知ってる奴でも俺の知らない場所で会って欲

しくない、知らない奴なら尚更だ。

智君に何かあったら大変だからな


………………以前からずっとそんなふうに思って

きた。

大切な人だから、それが当たり前だと考えて

いたのに…

親愛がいつから恋慕に変わったのか

ただ危険から守りたいと思っていた心は、

いつから嫉妬を伴っていたのか……


わからない

けれど確かなのは、俺は智君が好きなこと。

それが友情の域を超えてしまっているという

ことだ。