お山の妄想のお話です。




 「おい、サクショ。昨日はどの彼女の家に泊

まったんだ?」


学内のカフェテリアで昨夜の疲れを回復しよ

うと寛いでいると友人が寄ってきた。


「あ~?誰だったかな?久しぶりの奴」

「お前内定取ったからって遊び過ぎじゃない

のか?」

「後は卒業するまで問題を起こさなきゃいい

んだから、かまわないさ」

「でもさ、お前キー局の内定だよな?やっぱ

り遊び過ぎるとヤバいんじゃないのか?イメ

ージ的に」

「そんなのどうにでも誤魔化せるだろ」

「だといいけど。お前は気楽でいいよな、

俺なんてまだまだ先が長いぜ」


TV局にアナウンサーとして内定が決まった俺

と違い、まだ就職活動中の彼は忙しそうだ。


「しかし俺は就職できるのかな、何か不安に

なってきた」

「大丈夫だろ、信念があれば希望の企業に就

職できるさ」

「簡単に言うぜ~、じゃあキー局の中でも難

関な所に決まったお前は凄い信念があったん

だな」

「………俺は信念じゃないな」

「は?なら何だよ?」


友人の問いを苦笑で返し、机に突っ伏し目を

閉じた。


「おい?サクショ!答えろよ、寝たフリは狡

いぞ」


隣で騒ぐのを完全に無視する、理由は言いた

くないから。


俺がアナウンサーになろうと決めたのは、な

んらかの信念があったからじゃない。

消えたあの人への執着と固執だ。

大野先生への執念だろう。






大野先生に最後に会ったのは卒業式だった。


式中先生は教職員席の後ろの方に座り俺から

は見えなかった。

でも卒業生代表で答辞を読むのに壇上に立っ

た時には先生の姿がよく見えた。


本当はずっと先生を見ていたかったけど

それが出来ないのは承知していたから、堂々

と前を向き答辞を読み上げた。

先生に俺の勇姿を見せて格好いいと思わせた

かったから。


壇を下り席に戻るために横を通った時に見た

先生の瞳は何時もより潤んでいるように感じ

て、俺の答辞に感動したんだな、惚れ直した

かな?なんて思ってひとり悦に入っていた。



式の後、友人達との写真撮影や後輩に囲まれ

別れを惜しまれている間に先生の姿は消えて

しまっていた。

中学生最後の写真を先生と撮れないのは残念

だったけど、春休みに誰にも邪魔されずに撮

ればいいかと思い直した。


きっと先生は準備室にいるはずだから。

何時でも美術準備室に行けば先生はいる、

俺を待っていてくれる


そう信じて疑わなかった

なのに、違っていたなんて…


休み中何度準備室に行っても先生はいなくて

ならばと探しに行った職員室にもいない。

なんでいないの?出張かな?と何日も通い先

生を探した。


ある日、

卒業したのに何日も学校に来る俺を訝しんだ

元担任が、何処を探しても見つからない大野

先生の真相を話してくれた。



大野先生は一身上の都合でこの中学を去った

教師も辞めて故郷に戻ったようだ



一瞬目の前が真っ暗になった。


だって先生からそんな話は聞いてない

何故話してくれなかったの?

なぜ黙っていなくなった?


どうして俺を置いて、

俺だけを残して行ってしまったのか


余りのショックに茫然自失の状態で家に帰り

部屋に閉じ籠って泣いた。



先生にとって俺はどうでもいい存在だったの

だろうか?

俺が面倒だった?

俺の想いが迷惑だったの?

俺が……疎ましかった?


信じたくなかった、嘘だと思いたかった


でも先生が俺の前から消えたのは現実で

消息すらつかめなかった。




志望の高校には入学したけれど、もう将来の

夢なんてない。

良い大学に進んで大金の稼げる職業につく、

中3で考えていたことは先生がいない今では

どうでもよくなっていた


傷心のまま通った学校では成績も落ち、やる

気も起きない高校生活なんか無意味だと辞め

る事も考えた。


さて、 学校を辞めてどうするか……

俺はまだ先生を諦めた訳じゃない、

だから先生を探すという一択しかない。


日本中を放浪しながら先生を探し彷徨う

それも浪漫があっていいかもしれない。


でも現実的には無理だ。

まだ高校生、見た目ではそれ以下にも見られ

る俺が一人でフラフラしていれば補導、いや

保護される。それに探し回る資金もない。



今後どうするべきか考え、結局今の学校を志

望した当初の理由に行き着いた。

『金を稼ぐために良い大学に入る』

失くしかけていた志だった。


ただ『先生の金銭的負担をなくすため』から

『先生を探すため』へと目的は変わってしま

ったけれど。


高校の三年間はただ我武者羅に勉強した。

良い大学、資金、先生…絶対に見つける…

頭の中にはそれしかなかった。




その成果がこの有名大学への合格だ。

これ迄の学校より縛りがない大学で俺の生活

は乱れた。


高校時代に背が伸びた俺はイケメンだと騒が

れ、沢山の女子が群がって来た。

想い人がいない淋しさから、乞われれば付き

合い関係を持った。

同時に何人かと付き合った事もある。


でも、何人と関係を持っても俺の心が求めて

いるのはただ一人だけ…

淋しさや、辛さ、虚しさをいつも抱えていた

んだ。





そして恋い焦がれる心は疲弊していき、

年を経るごとに純粋な想いは黒く澱んだ。


恋情はいつしか執着に変わっていった。








壊れてます。

こんな翔君ばかりですみません