お山の妄想のお話です。




「そろそろ寝るか~」


寒い冬の深夜、テスト勉強を終えた俺は寝る

ことにした。


勉強も大事だけれど体はもっと大切だから、

催眠も充分取らなければならないんだ。

ポカポカ暖かい布団は空いているかな?

空いている事を祈りながら机の上を片付ける

と、ベットを素通りし自室から出た。


階段を下り、玄関から一番遠い奥の部屋に向

かう。

途中にある仏間の母の遺影に『おやすみ』と

もう一言かけて通りすぎ、目的の部屋へと辿

り着いた。


部屋の主を起こさないように、少しだけドア

を開け中を窺うと敷かれた布団に一人分の膨

らみがあった。


やった、今晩は邪魔者がいない!

俺はそっと布団に近付き寝入る人を見た。


両手を顔の横に置き、スヤスヤと安らかな寝

息をたてているその人は俺の愛しい人。


優しい瞳は閉じられ、小さくて艶々な唇は薄

く開いている。

キス待ち顔のように見えないこともない、何

だか誘われているみたいでドキドキした。


「いちくん…」


呼んでみるが反応はない。

熟睡?いや爆睡中だ。

俺は布団をペラリと捲って、いちくんの左右

をもう一度確認した。


右側……いない

左側……いない


やった!!

マジで邪魔者がいない!


何時もいちくんの横にこびり付いている末の

弟達がいない、今晩は暖かい布団を一人占め

できる、これは滅多にないチャンスだ。


俺はそろりと立ち上がり、邪魔が入らないよ

うにドアの鍵を閉めた。

そしていちくんの元に戻り布団を捲ると、さ

っと隣に潜り込む。


久し振りの同衾

ピッタリくっついたいちくんの首筋からは、

ミルクのような甘い匂いがする。

もっと良く嗅ぎたくて首筋に鼻を寄せると、

鼻息が掛かるのを嫌ったいちくんはくるりと

俺に背を向けてしまった。


でもいちくんの横向きの姿勢は好都合だ、俺

はいちくんの首の下に片腕を入れて背後から

抱きしめた。

いつしか俺より小さくなった身体は容易に抱

き込む事がができる。


「ふあ?」


急に冷たいものに包まれたせいかいちくんが

囲いから抜け出そうと身じろぐ。

けれどそれを許さずに、俺は更に身体を密着

させた。


触れ合った部分がポカポカ暖かい……

しかし、まだ手と足が冷たいままだ。

足を絡めたら冷たかったのか、いちくんはぐ

っと身体を丸めてしまった。


残念だか足先は布団が暖まるを待とう、

でも手は暖めやすくなったぞ。

俺は冷えた手をいちくんの閉じた股の間に突

っ込んだ。


股の間って暖かいんだよな

何時もは自分の股に挟むけど今日はいちくん

がいるので、せっかくだからいちくんのお股

で暖をとることにしたんだ。


『頭寒足熱』

手を温めて末梢の血管を拡張させ、放熱をす

る事で体温を下げて寝付きを良くさせる。

股に手を挟むのは実に理にかなっている。



「うんん…」


スエット越しでも冷たかったのか、はたまた

股に感じる異物のためかいちくんが可愛く呻

いた。

そのちょっと掠れた声にゾクリとしながら、

いちくんの横顔を見るとうっすらと目が開い

ている。


「いちくん、起こしちゃった?」

「うぅぅ?じろ?」


耳元で囁くとくすぐったそうに首を竦めた。


「おめ、なんでここにいんの?」

「寒かったからいちくんとこで温めてもらお

うと想って。今日はチビ達はいないんだね」

「うん、チビ達はさぶとトランプしてそのま

ま寝たよ」

「あいつら寒くなるといちくんやさぶに引っ

付いて寝るんだよな」

「うん、可愛いよな」

「いやいや、止めさせた方がいいよ。もう高

学年なんだからさ~」

「あいつらは可愛いから許す」

「そう言う問題じゃなくてさ、あいつらがい

ると俺が来れないでしょ」

「なんだよそれ~」

「俺だっていちくんに甘えたい時もあるし」

「じろがおれに?」

「うん」


くふふといちくんが笑う。

それから股間の違和感を訊いてきた。


「ところでさ、何でおれの股に手ぇ突っ込ん

でんの?」

「いや、寒かったから」

「寒いと人の股に手を入れんのか?おかしい

だろ?」

「だってそこに温かそうな股があったら入れ

るでしょ」


そう言いながらいちくんとの股の間をさする

と『バカ!動かすな!』と手首を掴まれた。


「お前なぁ、こんな事他人にやったら犯罪だ

ぞ。まあ、おれらは兄弟だから大目にみるけ

どさ」


その言葉がチクりと胸に刺さった。

兄弟、俺といちくんは兄弟……

その通りだけど、俺はいちくんが……


いちくんは俺の気持ちを知ってるだろ、

それにいちくんだって………

なのに、どうして『兄弟』と言う言葉で気持

ちを縛ろうとするの?

『兄弟』じゃ何がいけないの?




「どこまで大目に見てくれる?」


訊きながら目的を持って股の手を動かす。


「わっ、じろ!手を動かすなよ!おれのに当

たるだろっ!」


そう、いちくんのものに手が当たるように動

かしたんだ。


「兄弟ならどこまでしていいの?」

「 じろっ!」

「かきっこならいい?」


寝巻きのスウェットに手を突っ込んで、いち

くんを直に握った。


「うぎゃ!」

「ねえ、いちくん。俺のもして」


いちくんの手を引き俺のものに触れさせる


「じろ、マジですんの?」


振り向き眉を下げて訊いてくるのに頷くと、

いちくんは諦めて俺を握った。






くうくう寝息をたてるいちくん。

二人で弾け、後始末を終えるとすぐにいちく

んは眠りに落ちた。


この部屋に来たときは邪な考えがあったわけ

じゃなく、ただいちくんの温もりを感じて眠

りたかっただけだ。


でも、いちくんの牽制するような『兄弟』と

いう言葉で箍が外れてしまった。

いちくんは、あの言葉で自分と俺を縛るんだ


俺はいちくんが好きだ

いちくんも俺が好き……だと思う。


『兄弟』だから好きになったら駄目なの?

『兄弟』は愛し合ったらいけないの?

『兄弟』は倫理に反するから?


だけど心にブレーキはかけられないよ。

俺の心は真っ直ぐにいちくんに向かっている

んだ、いちくんを想う心は殺せない。

いちくんの俺への想いも殺させやしない。


今は『兄弟』という言葉に縛られてあげる。

でも大人になって、弟達が巣立って行ったら

もうそんなしがらみは捨てようね。


兄弟とか血の繋りとか無しにして

一人の人間としてあなたを愛するよ。

いちくんも『長男』という荷物を降ろして

自由になって。

自由な心で、俺を愛して


それが何年先になるのかはわからないけど

俺はずっと待つから。




腕の中をの温もりが眠気を誘う。


おやすみ、いちくん

おやすみ、さぶ、しろ、ごろ

おやすみなさい、父さん


おやすみ、母さん。


そして、ごめんね



母さんの遺影にかけた言葉を、もう一度心の

中で呟いた。








自分のための息抜き