お山の妄想のお話しです。
二人は渡した写真にじっと見入っている。
写真を渡した時も驚いたように感じられたし、もしかしたらこの人達は智君を知っているの
ではないかと思えた。
「あの、智君をご存知ですか?」
思い切って訊ねてみた。
すると松岡さんが写真から俺に視線を移して
言った。
「………見たことがあるような…菅田お前はど
うだ?」
まだ写真を見ていた菅田君は突然振られて驚
き、ばっと松岡さんを見た。
一瞬二人の視線が合ったように見えたが、菅
田君はすぐにまた写真に視線を戻してボソボ
ソと返した。
「………俺もそんな気が…します…」
何だか歯切れの悪い言い方だった。
見かけたことがある『かも』しれない程度な
のだろうか?
「見たとしたら、どの辺りでしょう?」
『かも』でもいい、その人が居た場所を知り
たい。そこが分かれば後は自分でなんとかす
るつもりだ。
しかし、松岡さんは俺の質問には答えず、逆
に真剣な表情で俺に問いかけてきた。
「………なあ、あんたは何故この人を探してい
るんだ?この人はあんたの何なんだ?」
「…え」
俺は戸惑った。
会ってまだ間もない人に私事を明かしていい
ものだろうか。
話す事によって情報を貰えるというなら経緯
を語ってもいい、でもこれは極めてデリケー
トなことだ。
同性同士の恋愛を嫌悪する人もいるだろう。
俺は智君の事を誰に知られてもかまわないし、
後ろ指を指されたとしても気にもならない。
でも、智君は?
俺との関係を周囲に知られるのは迷惑かもし
れない。
今は何処でどんな暮らしをしているかは分か
らないが、彼の生活に支障をきたしてはいけ
ないんだ。
「俺にとって…」
俺が言い淀んでいると、松岡さんは察した様
だった。
「あんたが相手の心配をしている事はわかる、
でも俺もこの人が心配なんだよ。もしあんた
がストーカーとか犯罪行為に関わっていたら
大変だからな」
「彼に危害を加えるつもりはありません」
それはキッパリと否定した。
家から出て行く程智君を追い詰めた俺が、こ
れ以上あの人を傷付ける事など出きるはずも
ない…
「俺が彼を探している理由は謝罪したいから
です…」
俺は腹をくくり話すことにした。
もしあの写真がこの地におれを導いたのだと
したら、この人達と巡り会えたのも偶然では
ないはずた。
だとしたら話すことで何かが変わるかもしれ
ない。
それにこの松岡という人物は先程から俺の様
子をうかがっているように感じる。
じっと俺を見つめ真意を測ろうと、状況を見
極めようとしているようだ。
彼は何かを知っている…智君に関する事を…
漠然とそう感じた。
第六感とでも言うのか、そんな曖昧な感覚で
も後のない俺には信じる価値はある。
「これ迄の経緯を話します、ですからどうか
知っている事があったら教えて下さい」
「………ああ」
二人が恋人同士であったこと
一緒に暮らしていたこと
俺のついた嘘で彼を酷く傷付けたこと
何も言わず姿を消してしまったこと…
そして、智君を見つけて謝罪したいと、
どんな罰でも受け、罪滅ぼしになるのなら
どんな事でもすると…
経緯と想いの全てを松岡さんと菅田君に話した。
松岡さんは始終渋面で、菅田君は神妙な面持
ちで聞いていた。
俺の話が終わり暫くの間沈黙が続いた後、松
岡さんがにがにがしい顔で言った。
「いきさつとあんたの気持ちはわかった。
あんたの想いに偽りがない事も感じたよ…
でもな、あいつの気持ちはどうかな」
「……あいつ?」
ドキリとした。
あいつ、とは今までの会話で該当するのは只
一人だけだ。
「あんたの探し人、大野のことさ」
やっぱりこの人は智君を知っていた、
やっとあなたに近付けた!
俺の心は歓喜に震えた。
「智君を知っているんですね!教えて下さい
今彼は何処にいるんですか!」
早く、一秒でも早くあなたに逢いたい!
はやる気持ちを抑えきれず松岡さんに詰め寄
った。
「落ち着けよ、確かに大野のことはよく知っ
ている。でもな、今はあんたにヤツの居場所
は教えられない」
「何故ですか!」
「何故かって?あいつの気持ちが分からない
からさ。あいつがあんたに会いたくねえ、顔
も見たくねえって言ったら会わせる訳にはい
かないからな」
「そんな……」
「そう言われてもおかしくないほど酷いこと
をあいつにしたんだろ?」
「 ……… ! 」
松岡さんの言葉に反論の余地はなかった。
そうだ、俺は酷く智君を苦しめたんだ。
なのに智君は俺と会って話を聞いてくれるだ
なんて思い込んでいた、無意識にも甘えてい
たんだ…
なんてあつかましい……
厚顔無恥、まさに今の俺だ…