お山の妄想のお話しです。
「 やだ 」
智君の身体をいい感じにして甘~く耳元で囁
いたのに、素気無い返事が返ってきた。
今回はいける!と思っていた。
いつもの少しスリルのある生徒会室ではなく、
俺達以外いない安心できる自室に連れ込んだ
時点で80%はいけると確信していたのに。
チョコ探しからの事故みたいな流れだけれど
確かに智君は反応していたし、ちょっとその
気にもなっていたみたいだったのに…
「なんでっ!!」
理由が知りたい!
何故?どうして?何がいけないの?
部屋が汚いから?
これでも必死に掃除したよ
私服がちょっと……だから?
ダブルパーカーじゃないから大丈夫だと思っ
てたけど、迷彩柄がウザかったのか?
それとも今日はまだキスしてないからかな♡
手順は大事だものね♡
色々と考えている間に、智君はポケットから
俺の両手を引き抜いていた。
そして手首をギリギリ締め上げてくる。
「おイタはいけないぜ」
「あだだだだだっ!」
制裁だ、きっと俺が性急すぎたからだろう。
「ごめんね智君。俺がっついちゃってたね、
キスから始めるから怒らないで♡」
「はあ?」
智君の米神がピクリと動き、手首を締め上げ
る力が増した。
「あだだだだだだだっ!」
「おめえ、何をいってんだぁ?」
ニコッと智君が笑う、でも何時もの菩薩の微
笑みではない。
今まで見たことの無い類の笑み、ドスが利い
た笑顔だ。
まさかのお怒り?!
「痛いっ!ごめんなさい!」
お怒りの理由は分からないけど、とにかく謝
ってみた。
だいたいの男は恋人がお怒りの時は謝ってお
けば大丈夫だと思っているから、俺もそうし
てみたけれど…
「何に謝ってんだぁ?」
おっかない笑顔は不動明王様のような忿怒相
に変わっていた。
常套手段は智様には通用しなかった様で御座
います…
「ごめん、わかんないです、何で怒ってるの?」
痛みで涙が滲んだ目を向けると、智君はハッ
として俺から手を離した。
そして済まなそうに言った。
「…おいらもごめん、痛かっただろ…」
「いいよ、これくらい何でもない。それより
智君はどうして怒っているの?」
「…わかんねえの?」
あ、ヤバい。またムッとさせちゃった。
俺は必死に智君の怒りの真相を探った。
部屋に入った時は普通だった。
チョコを下さいとお願いした時は少しムッと
していたかもしれない…
その後、後のポケットを探っている時は擽っ
たそうだった、前パケットに移動したら…
あれ?そこかな?
前パケットの時に智君の智君を弄りすぎたか
らかな?
「 焦らし過ぎたから?」
それしか思い付かなかったから言ってみた。
「 ……… 帰る」
どうやら不正解だったみたいだ、そして最悪
な事態に発展してきた。
「待ってよ智君っ!!」
俺は荷物を持ちドアに向かう智君に必死に縋
り付いた。
「離せ、もう翔くんなんて知らねえ」
「そんなこと言わないでっ!悲し過ぎて心臓
が止まっちゃうよぉ」
「それは困る」
何とか智君を引き留めてベットに座らせた、
これからぷんすかしている智君を宥めなけれ
ばならない。
折角のバレンタインを喧嘩で終わらすのは悲
し過ぎるから。
「ごめんね、俺はあなたが何に怒っているの
かわからないんだ」
「 ……… 」
「悪いところを言って、俺直すから」
智君の手にそっと触れ懇願する、その手を見
詰めながら智君は話し出した。
それは本当に俺の心臓が止まりかねない内容
だった。
「おいら翔くんが信じられなくなってきた」
「 ! 」
「おいらにチョコくれとか言ってるけどさ、
もう女の子達から沢山貰ってるし」
「 !! 」
「おいらを好きだとか言うけど、他の子から
も平気で受けとるんだな」
「 !!! 」
「別においらじゃなくてもいいんじゃねえ?」
「 !!!! 」
「とか思った」
智君の視線の先には紙袋に入った包みがあっ
た、あれはヤバい!でも、でも聞いて!!
「さささ、智くんっ!違うんだよ!あれは決
して受け取ったわけじゃないんだ!」
「 ……… 」
智君は信じていないのか胡乱気に俺を見た。
でも今から話すのは本当のことだから!
「俺、渡そうとする子達のチョコは全部断っ
たよ!付き合っている可愛い人がいるから受
け取れないってハッキリ言ったんだ!」
「でも、あんなにあるじゃん」
ビシッと指差される。
おおう、
普段からは想像できない鋭いツッコミ…
「あれはね、下駄箱とかロッカーに無断で入
れてあった物なの!そのままにしておけない
から泣く泣く持って帰って来たんだ」
「 ……… 」
まだ疑いの目を向ける智君。
でも真実なんです、勘弁してください!
「本当だよ、誰からかわからないから返せな
いし、そのままにはしておけないでしょ」
「それはそうだけど…」
「でしょ!」
どうにか納得してくれたみたいだ、これで
ご機嫌ナナメが治ればいいけど。
智君は暫く黙考したあと『わかった』と納得
してくれた。
正直無茶苦茶焦った
さっさと処分(家族に渡す)しとけば良かった。
あんなものを見たら誰でも気分を害すよね…
でも、智君が嫉妬してくれたのは少し嬉しか
ったな♡
これでさっきの続きが出来るはず、と触れて
いた手に指を這わせた。
が、
「それが一つ目」
パシッと手を払われて、じっとりと睨まれた
「えっ!まだあるのっ!」
今日はバレンタインだよね?
カップルが愛を祝う日だよね?!
なのに、何故か俺…
いろいろピンチみたい…
息抜き…