お山の妄想のお話しです。




「俺のせいだ…」

智くんが消えてしまったのは全て俺のせい…

俺のついた嘘が智君を傷つけ追い詰めた…

二宮の話を聞くまで、智君はきっと戻って来
るなんて何の根拠もなく考えていた自分が酷
く愚かに思える。

原因は浅ましい考えからの嘘、
あなたを試した、愚行。

俺が『雅紀』と言う度にあなたの心は深く傷
付いていたんだ、なのにそれを悟られないよ
うに無理に笑っていたんだな…

何故気がつかなかったんだ
愛する人を苦しめ悲しませていことを
あのひとの笑顔の下に隠された絶望を


一番近くにいた俺が
一番あのひとを愛している俺が

俺が

俺が智君を、智君との関係を壊したんだ…

己の心の安息のためだけに

「あああああっ!!」

両手で頭を掻きむしり叫んだ。
後悔、失意、絶望、懺悔
沢山の感情が脳裏を駆け巡る

そしてそのままテーブルへと頭を打ち付けた。
その度に激痛が走るが、そんなものは智君が
受けた痛みとは比べ物にならないはずだ。

「翔ちゃん!やめて!」

雅紀が止めるのをはね除けガンガンと打ち付
け続けた。
なぜなら俺は罰を受けなければならないから、
智君に与えてしまった以上の痛みを、裁きを
受けなくては…

「翔ちゃんっ!」
「翔さん止めるんだ!」

雅紀と潤に両腕を押さえられ止められる、
上げた顔の頬を水滴が流れ落ちるのを感じた。

ポタリ、ポタリ、
滴り落ちる雫

額から米神、眦、頬を流れテーブルへと落ち
る赤い雫
足りない、こんなものじゃ贖えない…
それだけの罪を犯したのだから。

「うわっ!血だ、どこか切れたんだよ!」
「救急箱!いや、救急車か?!」
「放っておいてくれ!俺のせいだ!全部俺が
悪いんだ、裁きを受けなければ…智くん以上
の痛みを、俺は、俺が!」

俺の流す血液を見て慌てる二人を振り払い再
び自傷行為を始めようとした時、
侮蔑を含んだ二宮の声がした。

「正気に戻れよ、みっともないな」

そして頬を数回はられた。

「あんたそんな事であいつに償っているつも
りなのか?笑わせるぜ」

二宮の声が一段階冷ややかになる。

「わからないのか?此処でどれだけ自分に傷
をつけ血を流しても、あんたの自己満足でし
かない。こんなことであいつの傷が癒えるこ
とはないんだ。
それともこれだけ傷付いたから許してくれと
でも言いたいのか?誰に対してのパフォーマ
ンスなんだよ、俺達にか?」
「違う!俺は智君に償いたいんだ!」
「だったら無意味なことはやめろ」
「無意味なんかじゃ…」
「じゃあどんな意味があるんだ?あんたがこ
こで取り乱して懺悔したって、あいつには届
かないだろ」
「でも、こうでもしないと俺の気が収まらな
いんだ!」
「お前の気持ちなんてどうでもいいんだよ」
「 ! 」
「肝心なのは智だ、智を見つけることだ。
あいつが自分からは戻らないとわかった今、
あいつを探し出すのが何よりも優先だ。
その為にはあんたがあいつに何をしたのか知
る必要がある、そうしなければ見つけた時に
あいつを説得できない」

二宮は凍り付くほどの冷たい眼差しを俺に向
けた。

「俺はあんたがこの先どうなろうが興味もな
いが、智にした仕打ちは全て話してもらう。
あいつをどんな言葉で傷付けたのか、どんな
態度で追い詰めたのか、それを見てあんたが
どれだけ楽しんだのかを全部な」

胸を抉られるような酷い言葉をぶつけられる。
でも二宮の言葉は確かに真実で、
俺の吐いた嘘を話すことから、智君への償い
は始まるのだと思った。