お山の妄想のお話しです。
歩いている人を避けて走る。
殆どが帰るために山を下る人で、俺のように
公園に向かう者はいなかった。
息を荒げて走る俺を行き過ぎる人達は奇異の
目で見るけれど、そんな事を気にしてはいら
れない。
急がなきゃ、早くあの人を見つけて花火を見
るんだ。
最後の一発だけでもいい、大野さんと2人で
観たい。
その思いだけで彼を探して走り続けた。
道の中程まできただろうか、前から2人の少
年が歩いて来るのが見えた。
1人は大野さんと背格好が似ている…
けど、違うな…
通り過ぎる時に彼等の後ろにもう1人いるの
に気がついた。
…………え?緑?緑の顔?!
2人の陰になり見にくかったけれどその人は
河童のお面をつけているようだ。
お祭りで浮かれたのか
陽気な人だなと少々呆れながら通り過ぎよう
とした時、河童のお面と一瞬目があった。
あれ?
その後すぐに河童は顔を背けてしまったけれ
ど、直感的に俺は確信した。
あの人…
ぐっと踏ん張り足を止め、上体を捻りながら
河童のお面の腕を掴んだ。
驚いてい振り返る河童
顔は見えないけど間違いない
金色の髪も河童が彼だと物語っている。
大切な人をやっと…
「やっと見つけた」
安堵で表情が緩む。
よかった、見つけることが出来た…
でもどうしてお面なんかをつけているんだろう?
「………どうして」
河童のお面から大野さんの困惑した声がした。
「どうしてここにいるの?相葉君はどうした
の?何でおいらなんかを探してたの!」
最後は悲鳴のような声だった。
「大野さん……」
俺には大野さんの心が理解できない。
なぜ雅紀の名前が出るのか、あなたを探し
たのはいけないことだったのか?
「探すでしょう!俺はあなたと花火を見に来
たんだ、ずっと2人で観る花火を楽しみにし
てたんだよ、なのになぜそんな事を言うの?
それに雅紀は関係ないでしょ、なぜあなたは
そんなに雅紀に拘るんですか!」
雅紀は大野さんに微かな敵意を抱き、大野さ
んは雅紀に何故か遠慮がちだ。
雅紀の敵意の意味はわかっている、でもあな
たの気兼ねはなんなの?
その根本には俺がいるらしい。
わからない、だけど知りたい。
大野さん、あなたの気持ちが知りたいんだ。
自惚れかもしれないけれど、もしあなたが俺
に好意を抱いてくれているなら…
俺はあなたに応えられる。
でもそうではなく、別の問題があるのなら俺
は早急にそれを解決しなければならない。
雅紀の名前が出たのは今までのあいつの言動
のせいかな?
あなたは何か間違った認識をしているのかも
しれない、だとしたらそれを俺に訂正させて
くれないかな。
俺はあなたが好きだ。
それは揺るぎのない真実
それをあなたに知って欲しい。
そして出来ることなら俺の気持ちに応えて欲
しい……
「だって相葉君は翔くんの大切な人なんでしょ!そんな人を放っておいておいらを探すな
んてどうかしてる!」
思った通りだ、俺と雅紀の関係を誤解してい
る。
「雅紀は友達です!他の友人達よりは特別か
もしれないけど、ただの友達!」
早く誤解を解かなければと焦って言い募った
せいか声量が増した。
「俺の大切な人は!」
勢い余って本心を明かそうとした時、大野さ
んを掴んでいた俺の腕を誰かがぐっと握った。
「道の真ん中で痴話喧嘩ですか?」
それは小さい方の少年の手で、彼は冷めた目
で俺を見ていた。
「公衆の面前で浮気の言い訳みたいな発言は
どうかと思いますが?」
その台詞を聞いて辺りを見回すと確かに周囲
の人達が好奇な目をしてこちらを窺っていた。
「あなたがこの人と花火を見に来た人?」
「そうだけど」
「じゃあ、あなたがこの人をこんなにした張
本人なんだ…」
「こんなにって?大野さん、どうかしたんで
すか?」
「 ……… 」
大野さんに訊いても、お面の顔を背けたまま
何も答えてはくれなかった。
「大野さん……」
やっと見つけたのに、この状態はどうしたこ
とか、俺は途方にくれた。