お山の妄想のお話しです。
ドーン、パリパリ……
ぼやけた視界に滲んだ花火が見える。
ああ、おいら泣いてんだな。
失恋で泣くなんて自分にはあり得ない事だと
思ってたのに。
花火が終わるまでセンチメンタルな気分に浸
るのもいいか、辺りには誰もいないからこの
涙は枯れるまで流そうかな…
そんなことをぼんやりと考えていると、遠く
から話し声が聞こえてきた。
ガサガサと草を掻き分ける音もする、もしか
して誰かが此方に向かって来ている?
道に迷ったのかな?だったらこんな林の奥ま
では来ないで引き返すはずだ。
「あれ?確かこっちのはずなんだけどな」
「本当にこっち?さっきもそう言って進んで
結局元の場所に戻ったでしょ」
話し声は徐々に近付いてくる。
「あ、あの大きな木!あれだよ、あの脇を通
ってもう少し行けば目的地だ」
「ああ、そうですね。なんとなくあの木に見
覚えがある…かも」
話し声で男の2人組だとわかった。
そして会話の内容でその2人の目的地がここだ
ということも知れた。
どうしよう、あの人達は多分誰も居ないと思
ってるんだろう、でも実際はおいらがいる。
きっと驚くだろうな……
しかも泣きっ面の男がいたら絶対に引く。
ここは花火を見るのに最適な場所、めそめそ
して綺麗な花火が見れないおいらは退散して
今から来る人達に場所を譲ろう。
そう思い立ち上がる。
暗闇だから近付かなければ泣いていたのもバ
レないだろうけど、一応腕で涙を拭った。
「ほら!花火がよく見える!ここで正解だよ」
「やっと着いたか」
ガサガサっとすぐ近くで音がして人影が現れ
た、やっぱり男の2人連れだ。
「うわっ!」
一人がおいらの姿を見つけ、驚いて大きな声
を出した。
やっぱりね、こんな所に人が居るなんて思わ
ないもんな。
「どうしたの?大きな声を出し……!」
もう一人もおいらの存在に気付いたようだ。
やっぱり驚いている。
ビックリさせて悪いな、おいら退くから勘弁
してくれ。
でもなんだかこの声、聞いたことがある気が
する?あれ?もしかして……
その時一際大きな花火が上がり辺りが明るく
なった。
おいらの姿も2人組の姿もはっきりと照らし
出される。
「 あっ!」
2人がおいらを見て声をあげた。
「 さとしっ?! 」
「 おじさん!」
おいらも2人を見て驚いた。
「じゅん、かず!」
2人は中学の後輩であり、ここを一緒に見つ
けた友人でもあった。
「智もここを覚えてたんだな」
潤が笑いながら近付いて来る、その後にいる
かずは怪訝な顔をしていた。
「……おじさん1人なの?連れはいないの?」
どきっとした、こんな所に1人きりなんてや
っぱりおかしいよな。
かずは感がいいからおいらの状況を悟られな
いようにしなくちゃ。
泣いていたなんて知られたらばつが悪い。
「連れとはぐれちゃったんだ、で、人混みが
嫌だったからここに来たんだよ」
「へえ、こんな所に1人で来るなんて凄いな
俺は気味悪くて 無理だよ」
潤はおいらの話を疑っていないようで、感心
しながら隣までやってきた。
「俺達本当は上の公園まで行くつもりだった
けど人が多くて断念したんだ。それでここの
事を思い出してきたんだよ、まさか智がいる
とはおもわなかったけど」
「わたしは祭りにも来たくなかったんですけ
どね。潤君がどうしてもって言うから…」
打ち上げられる花火の光が照す中、かずも潤
とは逆隣に来た、そしておいらの顔をじろじ
ろと眺めている。
気付かれるかも!おいらは焦って顔を背ける
「あんた……」
でも両頬にそえられたかずの手によって顔の
向きを変えられてしまった。
すぐ前にかずの顔、その目が細められた。
「泣いてたの?」
ああ、バレちまった…
「何があった?」
包み隠さず全てを話せ、
有無を言わさない強さで問われた。