お山の妄想のお話しです。



また大野さんが来なくなった。
どうしたんだろう、何が原因なのか?
色々考えて辿り着くのは大野さんが最後にこ
こに来た日のことだ。

雅紀との出会いを効かれて話した。
あの時の大野さんは何時もと変わりなかった。
いや、少し元気がなかったかな?
その後雅紀がやって来て下らない事を言い出
して、そして突然帰ってしまった。

やっぱり雅紀との会話が原因かな、大野さん
の気を悪くするような事を言ったのか?
下らなすぎて呆れたのかも。

「今日も来ないのか…」

逢いたいな、あなたに逢いたい。
どうしてこんなにも逢いたいのか、あの人の
ことが気になるのかはもうわかっている。
俺は大野さんが好きなんだ。

あの人が初めて教室に俺を訪ねて来た時から
少しづつ惹かれていたんだ。
当時は自分の気持ちが分からなかったけど、
大野さんが横山達と仲良くするのが気に入ら
なかったのはきっと嫉妬だったんだな。

前回来なくなった時の胸の痛みや切なさより
も、大野さんへの想いを自覚している今回の
の方が数倍痛くてやるせない。

「どうすりゃいいんだよ……」

理由が分からない限り待っていても無駄だ、
やはり俺から会いに行くべきだろう。
前と同じ、行動あるのみ。

しかし大野さんはどこにいるんだ?
夏休みに教室にいるわけがないし、部活には
入っていないと言っていたから美術部が使っ
ている美術室にもいないだろう。
こんな時は電話やメールで連絡をとるべきだ
ろうが、俺達は連絡先の交換をしていなかっ
た。
迂闊だった、いつでも俺に会いに来てくれる
なんて変な自信があったんだ。

「会えたら連絡先を聞かないとな」

もう少ししたら捜しに行こう。
きっと校内の何処かにいる、そう感じるんだ。



トントンとノックの音がした。
ドアを見ると大野さんがいるのが見えた、何
だか顔色が冴えないようだ。
どうしたんだろう、何か悪い事でも起こった
のか?
良くない事態に巻き込まれているのなら話を
聞かないと、俺は大野さんの力になりたい。
どもここでは他に人がいて落ち着いて話せな
い、俺は大野さんの腕を掴むと人気のない場
所まで連れて行った。

「大野さん、何かあったんですか?」

不味い事態なら俺がなんとかしなくてはとい
う気負いからつい口調がキツくなる。
そんな態度に大野さんは傷ついたように『ご
めん』と呟いた。

しまった、そんなつもりじゃないのに…
あなたにそんな顔をさせたくて言った訳じゃ
ないんだ。
ただとても心配だったから来なかった理由を
知りたい、もし厄介事じゃないのなら俺に問
題があるのかな?
あなたに嫌われたくない、離れていかないで
と正直に言いたいけれどそれは本心を吐露す
ることになってしまう。
大野さんが俺をどう思ってくれているのかわ
かるまで彼に向かうこの想いをまだ告げるべ
きじゃないんだ。


大野さんが話した理由は予想だにしないもの
だった。
俺の絵が描けないからって、なぜ?
大野さんが描きたい笑顔ってどんな?
人物を描くのをやめる?

そんな…
そんな事になったら口実が無くなって、もう
あなたに逢えない。

嫌だ!絶対に嫌だ。
俺は必死に言い繕った、懇願もした。
情けないとは思わなかった、それよりもこの
繋がりが途絶えてしまう方が我慢できない程
の苦痛だろうから。

「わかった、ギリギリまで頑張ってみる…」

大野さんから継続の意を聞きホッと胸をなで
下ろす。
でもこれは一時凌ぎに過ぎない、残された期
限の内に想いを伝える事が出来るだろうか?

ずっと一緒にいられる関係になるには一体ど
うしたらいいんだろう…