お山の妄想のお話しです。
それからも昼休みに翔くんの所へ通った。
翔くんはやっぱり忙しくて、クラスの皆は楽
しくて優しい。
前と違うのは幼馴染みだという相葉君がぴた
りと引っ付くように翔くんの側にいることだ。
おいらが近付いて呼べば翔くんは作業を中断
してこっちを見て相手をしてくれる。
でも少し経つと相葉君が『翔ちゃんこれを終
わらせなきゃならないから』とおいら達の会
話を遮るんだ。
そうなるとおいらはすごすごと退散するしか
ない。
たまに横が『相葉君やって邪魔してるやん』
って言うけど、相葉君は『おれは見てるだけ
だからいいの~』とその場で翔くんを見つめ
続けるんだ。
それで翔くんの側にいるのが許されるなら、
黙って静かにするからおいらも近くにいたい…
でもおいらはクラスはおろか学年も違うし、
翔くんと親しいとも言えないから許されない
んだろうな。
幼馴染みの相葉君とは立場が違いすぎる。
翔くんと少しだけ話して、横達とふざけるか
そのまま自分の教室に戻るかの日々が続いた
その日も同じ時間に訪ねると、翔くんはいな
かった。
その代わりに翔くんの席に相葉君が座ってい
て、おいらを見るとニッコリと笑って言った
んだ。
「せっかく来てくれたのにごめんね、翔ちゃ
ん急に呼び出されて職員室に行っちゃったの。
大野さんが来たら昼休み中は戻れないからっ
て伝言を頼まれたんだ~」
「あ、そうなんだ…」
今日は顔も見れないのか残念だな、横もいな
いみたいだし教室に戻ろう。
そう思い踵を返した時に相葉君に呼び止めら
れた。
「大野さんまだ時間あるでしょ?おれとお茶
しない?」
「へ?おちゃ?」
「そう!中庭の自販機でジュースでも買って
お話ししましょ!」
「え?あ?」
応とも否とも答える前に手を取られて引っ張
られる、バスケ部だという彼は力が強くてそ
のまま引き摺られるように中庭まで連れてこ
られた。
「大野さん何飲む?奢るよ!」
「…自分で買う」
笑顔で強引な彼に付き合うしかなさそうだ。
おいらは教室に戻るのを諦めてパイナップル
ジュースを買った。
2人で中庭の隅のベンチに座る。
相葉君は『これ超不味いの!』と言って買っ
たお茶を本当に不味そうに飲んでいる。
おいらもジュースをストローでちびちび飲ん
だ、しばらくお互いに無言だった。
「大野さんさぁ、つーか、面倒臭いから大ち
ゃんって呼ぶね!大ちゃんはどうして翔ちゃ
んを絵のモデルに選んだの?」
切り出したのは相葉君で、おいらは何て答え
ようかと少し考えてから『笑顔がキラキラし
てたから』と話した。
本当はその後に『翔くんのこともっと知りた
かったし』と続くけれどそれは黙っていた。
相葉君に言ってはダメな気がしたから。
「うん、確かに翔ちゃんの笑顔はキラキラし
てるよね!」
相葉君が同意してくれた、やっぱり誰が見て
もキラキラした素敵な笑顔なんだ。
何だか嬉しくなって、つい余計なことを言っ
てしまった。
「おいらあの笑顔の翔くんが描きたいんだ」
「それは無理だと思う」
ピシャリと言われた、思わず相葉君を見ると
笑顔だった。
冷ややかな笑み。
口元は笑んでいるけど目はそうじゃない、冷
たい色をしている。
「……なんで、なんで無理なの?」
どうして無理と言うのか理由が知りたい。
なぜおいらをそんな冷たい目で見るのかも。
「だってあのキラキラ笑顔はおれと一緒の時
でしかしないもの」
「 えっ?」
相葉君は不味いというお茶を一口飲んで、お
いらに顔を向けた。
「あれはおれといるから出る笑顔、他の人の
前で翔ちゃんはあんな風に笑わないよ」
いつの間にか笑顔は消えていた。
「翔ちゃんはおれの大切な人だし、翔ちゃん
もおれを大事に思ってくれてる。お互いに想
い合ってるからあの笑顔になるんだよ」
「 ………… 」
「その証拠に大ちゃんにあの笑顔見せたこと
ないでしょ?」
言われてみればそうだ、球技大会の時からキ
ラキラ笑顔を見ていない。
翔くんはおいらと話しているとふっと笑う時
がある、でもそれはキラキラじゃない。
優しいけれど少し困ったような笑顔……
一度もおいらにはあのキラキラを向けてはく
れない。
相葉君のように長い時間を一緒に過ごしても
いないしお互いに通じ合えてもない、おいら
はただの迷惑な先輩でしかないからか。
「だからさ、もう諦めて?」
諦める?モデルになってもらうのを?
それとも翔くんともっと仲良くなりたいって
思うこと?
相葉君はおいらの気持ちに気づいてるの?
「それはモデルになってもらうこと?」
「うん、そう。だって大ちゃんが描きたいっ
ていうキラキラな笑顔は見れないでしょ」
そうかもしれない、でもおいら諦めるなんて
出来ないよ。
「……もっと仲良くなったらおいらにも笑って
くれるかもしれないだろ」
無駄な足掻きかもしれないけど、ほんの少し
でも希望の光りがあるのなら諦めない、諦め
たくない。
「もっと仲良く?それこそ無理だよ~
だっておれと翔ちゃんの間には誰も入れない、
強い絆があるんだから」
強い絆……
「幼馴染みで、親友だから?」
「そうだよ。でもおれはそれだけじゃないと
思ってるけどね」
「それだけじゃない?」
「うん。翔ちゃんに訊いたことないけど、た
ぶんおれ達好きあってると思うんだ。チュー
とかしたことないから、プラトニック・ラブ
だけど」
プラトニック・ラブ?
好きあってる?それって。
「付き合ってるってこと?」
「…うん、そう」
「 ! 」
おいらはショックを隠せなかった、きっと悲
壮な顔をしていただろう。
「だから、大ちゃんがいくら頑張ってもダメ
なの。わかってくれた?」
そんなおいらを見て相葉君は嬉しそうに笑った、晴れ晴れとした笑顔だった。
おいらが翔くんに寄せる想いを相葉君は感づ
いているんだな、だからけん制されたんだ。
翔くんには近付くなって…
不味いお茶=あいば茶w
相葉ちゃんが嫌な奴っぽいm(_ _)m