お山の妄想のお話です。
女子からちやほやされている俺が自分を好き
になるはずがないと大野さんは言った。
好きという言葉は普通可愛い女の子に言うも
のだ、とも。
自分で言うのもなんだが、確かに俺は女子か
ら持て囃されている。
でもそれを自慢に思ったり嬉しいと感じたこ
とはないし、俺の上辺だけを見てキャーキャ
ー言っている彼女達にそういう感情を持った
こともない。
俺が好きになったのは、俺の事を殆ど知らな
く外見だけで人を判断しないだろうあなたです。
それに『好き』という言葉は『好きな人』に
伝えるもので性別なんて関係ない。
どう言ったら信じてもらえるんだろう…
初めて絵を見た時の感動と作者への憧れ
屋上であなたを見た時のときめき
憧れの人と好きになった人が同一だと知った
時の溢れんばかりの喜びを。
そうだ、最初から全てを話そう。
『大野 智』という名を知ってからの長い長い
俺の片想いの軌跡を。
俺の話を大野さんは静かに聞いてくれた。
途中、話の仕方に問題があって多大に引かれ
たがなんとか言い改めて誤解を解いた。
話し終わり大野さんをそっと伺う。
少し頬が紅いように見える、それって嫌悪感
は抱かれてないって事だよね?
俺の気持ちを理解してくれたかな?
でもまだ猜疑心が残っている表情だ。
「俺の気持ちに嘘はないんです」
こんな言葉でしか伝えられないのがもどかし
いけれど、この溢れんばかりの想いをどうか、どうか信じて!
「………そこがわかんねえ、なんでおいらなん
かを?」
その言葉でこの人は自分の魅力を全く分かっ
ていないんだなと痛感した。
だからあんなにも無防備にあちこちにその光
の粒子をばら蒔いて皆を魅了させるのだと。
でも大野さんの素晴らしさを自身が知らない
なんて残念な気がする。
「その人の素晴らしさって本人は気づかない
ものだと思います。自分では当たり前で普段
通りでも他人から見れば凄い事だったりする
ものです。大野さんは俺には無いものを沢山
もってる、その一つ一つが俺には憧れで愛し
いものなのです」
だから俺はそのほんの一端だけを話した、
それを聞きながらテレて恥ずかしそうにする
大野さんが可愛くて、俺の中から愛おしいと
いう想いが溢れ出すのがわかった。
俺が知っている事が大野さんの全てではない、
まだまだ知らないことの方が多いはずだ。
良い事ばかりではないかもしれない、でも仮
にとんでもない悪癖があったとしても俺は受
け入れる事が出来る。
『恋いは盲目』まさにその状態だろう。
そんなもの何時かは冷めると他人から嗤われ
るかもしれないが、ずっと冷めない恋だって
あるはずだ。
大野さんはまだ俺に対して同じ程の熱量を持
ってはいない、だって彼にとっては最近知っ
た人に過ぎないから。
それでもいい。いや、それでいいんだ。
これから時間をかけて、『櫻井 翔』を知って
欲しい、そして知った上で好きになって、俺
に恋をして下さい。
俺もまだ知らないあなたを見つけて、もっと
もっと好きになります。
「大野さんあなたの事をもっと俺に教えて下
さい。そして出来れば俺に興味を持って俺の
全てを見て知ってください。そうすればあな
たを想うこの気持ちに偽りがないと信じても
らえるずです」
大野さんは潤んだ瞳で俺を見ながらこくりと
頷いた。
ああ、これでやっとスタートラインに立てた。
ゴールまでの道のりがどれ程のものかは想像
もつかない。
けれどきっとそこは2人で手を繋ぎ一緒に踏
み出すスタートラインにもなるはずだ。
俺はそう信じている。
夕日が差す生徒会室はすべてが優しいオレン
ジ色、そんな中でもあなたはあなたの光を放
ってキラキラと煌めいている。
俺の恋した人はこんなにも美しい
感動で胸がいっぱいだった。
それから、お互いを知るためにと学食で逢う
約束をした。
俺の隣をあなたのためだけに空けておきます
なんて歯の浮くような台詞まで吐いてしまった……少し調子づいていたかもしれない。
大野さんは気恥ずかしそうに承諾してくれて、
俺は来週から学食で大野さんに逢えると舞い
上がっていた。
………それなのに
21周年おめでとうございます。
記念日のお話しが書きたかった…