お山の妄想のお話です。



放課後、ただひたすらに大野さんが来てくれ
るのを待つ。

来て下さいとお願いしているので時間は指定
していない。
でも場所は勝手ながら生徒会室にした。
ここは一般の教室から離れているし、集合を
かけなければ他の役員が来ることもない。
したがって誰にも邪魔される事なく、2人だ
けの時間が持てる。


学食で大野さんにメモを渡してから、何度も
告白のシチュエーションを頭の中で繰り返し
ている。

2人だけの静かな部屋、大野さんと向き合い
その澄んだ瞳を見つめながら俺は『あなたが
好きです』と言うんだ。

すると大野さんは……
大野さんは?どんな反応をする?
嬉しいと笑ってくれるか、それとも気持ち悪
いと蔑んだ目で見られるか…

冷たい瞳を想像してブルッと身震いした。
そんな眼で見られて、はたして俺は再起出来
るのだろうか?

落ち着け大丈夫だ、それは想像にすぎない。
結果はどうであれ今はただ自分の想いをあり
のまま伝えればいい。

……そう自分を落ち着かせようとするが人生初
の告白だ、なかなか胸の鼓動は治まらない。
テンパって無様な姿を見せるのだけは避けた
いのでとりあえず深呼吸を繰り返した。


どれ程待ったか、扉の向こう側に人の気配を
感じた。
よく見ると上部の曇りガラスにひょこひょこ
と人影が見え隠れしている。
大野さんだ!!

来てくれたことに安堵し、そして緊張が膨れ
上がる、いよいよだしっかりしろ、俺!
固唾を飲んで扉を見つめるが何故かなかなか
入って来てくれない。
どうしたんだ?入り難いのかな?
それともまさかの人違い?

「大野さん?」

呼び掛けるとガラリと扉を開き大野さんが入
ってきた。
なんだか渋々といった体だけれど、どうした
んだろう?

「来てくれてありがとうございます」

疑問に思ったがそれよりも来てくれたことが
嬉しくて満面の笑みが浮かんだ。

「おいらに何の用があるの?」

大野さんは俺の顔をしばし眺めてから単刀直
入に言った、なんて男らしさだ。
ほんわりとした雰囲気なのに男前な言動、素
敵だ………
何だか頬が熱い、そして見つめられるのが凄
く恥ずかしい。
ついもじもじしてしまう、これが所謂恥じら
いというものか。

しかし、思い出せ!櫻井 翔よ!
お前は何のために目の前の人を呼び出したん
だ!この熱い胸の想いを伝えるためだろう!

俺は気合いを入れ姿勢を正すと、大野さんと
向き合った。
そしてその美しい手を握り思いの丈を打ち明
けた。

「大野さん、あなたが好きです。俺と付き合
って下さい!!」

どうかあなたを恋い慕う想いの全てを受け取
って下さい。

「ふえあ?!」

俺の告白に大野さんはとても驚いていた。
それはそうだ、突然男から愛の告白をされる
なんて青天の霹靂だろう。
悪い冗談と思ったかも……
そのせいなのか最初はぽかんとしていた表情
がだんだん固く怪訝なものに変わっていった。

「…引っかかんねえぞ」

え?どういうこと?

「おいらをからかってんだろ?」

これ、最悪な事態じゃないか?
俺の一世一代の告白に誤解が生じている!
あなたを謀るなんて出来るわけがないのに…

なんとか誤解を解かないと、この告白が無か
ったことにされてしまうかもしれない。