お山の妄想のお話しです。




理事長から話を聞いたいくらか後に文化祭が
開催された。
なかなか真相を掴めなかった俺にはまたとな
いチャンスだ。

文化祭当日、午前はサッカー部として招待し
た他校のチームと親善試合をし午後は生徒会
から自由時間を少しもらえたので校内を見て
廻る事が出来た。
悪友達はお化け屋敷に行こうとか、メイド風
喫茶を覗こうとか予定を立てていたけど、僅
かな時間しかない俺の行くべき場所は決まっ
ている。

なぜなら今日は文化祭、何の躊躇もなく芸術
科の校舎に行くことができる。
俺の予定はこうだ。
まず2年の教室で展示されている彼の作品を
十分に堪能し、そして『大野さん』と『屋上
の君』が同一人物なのかを確かめる。

そう決意した俺は悪友達と別れ、意気揚々と
芸術棟に向かった。

芸術科2年の教室はギャラリーになっていて
ぐるりと壁に生徒の作品が展示してある。
主に絵画だ。
そして中央のテーブルには陶芸や彫刻などが
置かれていた。

教室の中は作品を鑑賞する生徒と数人の芸術
科の生徒がいた、残念な事にその中に俺が逢
いたい人は含まれていなかった。
少しがっかりしたけれど時間はまだある、ゆ
っくり絵を眺めている間に彼が現れるかもし
れない。

端から順に展示物を見ていった、風景画や人
物画など様々なタッチで描かれている。
どれも個性的で素晴らしいと感じるけれど
『大野さん』のように響くものはなかった。

展示も終盤に差し掛かった時に一枚の黒い絵
が目についた。
他のものは色合い豊かなのにその一枚だけ
白黒で描かれている。
なんの絵だ?と近付いて良く見るとそれは
繊細な細密画だった。

作者は『大野 智』さん…
この人の作品はなぜこんなにも俺を魅了する
のか…

人物、動物、植物や建造物、乗り物……
世の中のあらゆるものが描き込まれているよ
うだった。
まるでオモチャ箱?
いやビックリ箱みたいだ。
俺は時間を忘れてその絵に魅入っていた。


ブブ、とポケットから振動がして我に返る。
どれほどの時間絵の前にいたのか、辺りの顔
ぶれは入れ代わっていた。
けれどやはりその中に『屋上の君』の姿はな
かった。
タイミングの問題か、俺の星の巡りが最悪な
のか?彼のホームグラウンドにいるというの
に逢えないなんて。
どれだけ縁が薄いんだ…

悲嘆にくれながらポケットの振動元を取り出
すと生徒会から沢山の通知があった。
ハッとして時間を確認すると集合時間を大幅
に過ぎていた。
やってしまった、本気で時間を忘れてた
すぐに生徒会室に行かなければ…

ここまでやって来た当初の目的は1つだけ達
成出来た、けれどもう1つは完全に未達だ。
せめて一目だけでもと往生際悪く彼の姿を探
したけれど、居ないものは居ないんだ諦める
しかない。

俺は後ろ髪を引かれる思いで教室を出た。
すると生徒会仲間であり悪友のブッキーと隆
ちゃんが凄い勢いで走って来るのが見えた。
2人は俺の前まで来ると凄い剣幕で捲し立て
始めた。

「おいお前何やってんだよ、集合時間とっく
に過ぎてるんだぞ!生徒会長がお怒りで爆発
寸前だ!」
「マジで?そんなに怒ってんの?」
「バカ!マジだ!だから俺達が急いで迎えに
来たんだろ!」

生徒会長のお怒りは相当なものらしい。
ブッキー達は腕を掴むとグイグイと引っ張り
急かす、俺もヤバいと走ろうとしたその時
大切な人の名前が聞こえたんだ。

「大野君!とっくに交代の時間過ぎてるんだ
よ!今まで何処にいたの!」
「悪い、昼寝してたら寝過ごしちゃった」

『大野』の名詞に振り返るとそこには女生徒
に詰め寄られる『屋上の君』の姿があった。

やっぱり、やっぱり同一人物だった!!
そしてやっと逢えた…
憧れの、愛しい『大野  智』さん
感無量…感動で瞳が潤む…

しかしそこで、今何らかのアクションを起こ
さなければいけないのでは!と直感的に感じ
たんだ。
今でなければ、また長い間こんなチャンスは
巡ってこないと俺の本能が訴えている。
今この刹那を大切にしなければ!

俺は足を止め大野さんのいる場所に引き返そ
うとした、しかし悪友達はそれを許してはく
れなかった。

「なにやってんの!急いで戻らなきゃヤバい
って言ってんだろ」
「どうしたんだよ?ほら、早く歩け!」

両腕をとられグイグイと引かれる

「お前等腕を離せ!俺は戻らなきゃならない
んだよ!」
「何処にもどんだよ!」
「個人的な用事は後にしろ!今は生徒会室に
行くのが最優先だ!」
「ばか!お前らばかっ!俺の最優先事項は今
あそこに戻ってあの人に話しかけることなん
だ!!」
「わかった、後で此処まで付いて来てやるから、とにかく今は会長の所に急ごう、な?」
「だから!後じゃ駄目なんだ!そう天命が下
ってるんだよ!」
「何が天命だ!!面倒臭いな!」

ジタバタ踠いて動こうとしない俺に痺れを切
らせた2人は、両方からガッチリと腕を組む
と問答無用に歩き出した。
所謂強制連行と言うやつだ。

「ああ、屋上の君、大野さん!」

廊下を引き摺られながら行く俺の叫びは、
誰にも届くことはなかった…



それから数時間後、生徒会の仕事を終えて急
いで向かった芸術棟の彼の教室はすでに全て
が撤収された後で人影もなかった。

「天命を疎かにしたからだ……」

夕闇迫る教室で一人呟いた言葉は、この先ず
っと狭まらない2人の距離を暗示しているか
のようだった。





この後の記事は限定です。
祝!100記事(自己満)的なもので、今まで限定が
1つもないのでノリで限定にしました。
たいした事は書いてませんので
アメンバー?さんは募集しません。
ていうか、仕組もわからないですしw