お山の妄想のお話しです。
雅紀に調べて欲しいことを伝えた後ふたりを見ると、丁度友達が店に入る所だった。
あの人は暫く周りを見回してから近くのベンチに腰を下ろした。
これは今日のお話しタイムのチャンスだ。
俺は静かに近付くことにした。
途中で気付かれて逃げられたら大変だから。
どこまで気付かれずに近くまで行けるかな…
何時も何かを警戒しているふうなあの人。
今も通りを歩いてくる学生を探っているみたいだ、ぼーっとしているようで実は神経を張り巡らせているのがわかる、一瞬ピリッと空気が震えるような感覚が伝わってくるんだ。
俺はどうだろう?
警戒される?それとも…
俺はどんどんベンチに近付く。
あの人は全く俺に注意を向けない、慣れ親しんだ気配には無防備なのか……
受け入れられていると思っていいのかな?
まだあなたの中に俺はいるって思っていいの?
一歩近付くたびに小さな声で呼び掛けてみる。
「…マキさん 」
まだ聴こえないのかな?反応がない。
「……さとこさん 」
かなり近くまで来たのに気が付かないの?
「……さと……さん 」
とうとうベンチの端に座り込んだ。
「………さと……く……」
きっと無意識にだろう。
今まで無反応だったのに、俺がその名を呼んだらふいとこちらを向いた。
そしてやっと俺に気付いてとても驚いている。
ふふ、驚いても声は出ないしリアクションもないんだね。
幼稚園のお化け屋敷を思い出すよ……
「今日も良い天気ですね」
にっこり笑って当たり障りのない挨拶をした。
目の前の可愛い顔がだんだんと忌々しそうに変わっていく。
迷惑に思ってる?
やっぱり俺を避けたいの?
でも、ごめん。
俺、開き直ったの。
どんなあなたにだって何回も恋してしまうから、もう貫くことにしたんだ。
あなたが何故そんな格好をして違う名前を名乗っているのかはわからないけど、それがあなたなら俺は受け入れるよ。
俺の初恋、ポカポカの日溜まり、忘れようと努めてもいつでも胸に居続ける大切な人。
あなたは俺の運命の人。
あなたの運命の人もきっと俺だよ!