お山の妄想のお話です。
※ 愛鍵 ※
「あのですね」
ソファーの上、正座で向き合うパパと智。
喧嘩は回避したみたいだ、おいらの出番がなくってよかったよ。
「俺ね、智くんと一緒に暮らしたいってずっと思ってたの。でもこの部屋狭くて智くんの趣味部屋もつくれないでしょ、だから色々物件を探したの。そしたら理想的なのが見つかってそこを契約したんだ」
「……まじか」
「勝手に決めちゃったけど、智くんも気に入ってくれるはずだよ。海の近くの新築分譲のタワーマンションなんだ」
「買っちゃったの?」
「 うん 」
「お、おいくらまん円?」
「そんなの気にしなくていいの、これは男の甲斐性なんだから」
「おいらだって男だけど…」
「俺があなたとどうしても住みたかったから
用意したの。だからあなたは何も気にする事はないんだよ」
「……でもさ」
困り顔の智、今日は智の百面相が見れる日だな。
「もしかして、俺と住むの嫌?」
今度はパパが泣きそうな情けない顔に……
「嫌じゃないよ、でも突然だからさ、ちょっと驚いちゃって」
「ほんとに?」
「うん、嫌なわけねえだろ」
「………よし」
パパは居ずまいを正すと智の両手を固く握った。
「大野 智さん、ぼくのパートナーとして一緒に暮らして下さい」
「ぱ、ぱあとなーって……」
「もうっ!俺プロポーズしてんだけど!」
「うっそ!マジで!」
「大マジです。返事は?大きな声で言って!」
「えええっ!は、はい!よろこんでぇ!」
「よろこんで、って居酒屋の店員みたいだな」
「だって翔くんが急かすから~」
「ふふ、ありがとう智くん。俺凄く幸せだよ」
そう呟いて智をそっと抱き寄せたパパの顔は
喜びと安堵とでとんでもなく崩壊していた。
「俺ね本当は凄く不安だったの。部屋を綺麗にしてたのも、汚ない部屋だと智くんが俺と住むの嫌だって言うかもしれないって思って……
でも、智くんはふたりで片付けようって言ってくれた、嬉しかった」
「おいら翔くんさえいればいいんだもん」
「俺も……」
「たとえ部屋が汚くてもさ」
「…うん 」
「すごいなで肩でも」
「……うん?」
「朝、顔が浮腫んで別人みたいでも」
「んんんっ?!!」
「高い所がダメで、ヘタレで、ネクタイが微妙に曲がってても…」
「あれ?これ悪口??」
「違うよ~どんな翔くんでも好きってこと!」
「く~っ!さとしぃ~」
歓喜のあまりぎゅうぎゅう力を込めて智を抱きしめるパパ。
良かったな、一時はどうなることかと思ったけど、やっぱり2人は離れられないつがいなんだよ。これでおいらも一安心だ。
「もっとロマンチックな場所で、あなたが好きなスーツをビシッと着込んでプロポーズする予定だったのに…」
「んふ、予定が狂っちまったな」
「ね、智くん、もう一回プロポーズさせてくれる?」
「え~なんで?」
「だってプロポーズって言ったら指輪でしょ、
今度はしっかり指輪を用意して、それから」
「それから?」
「あなたと俺の新居の鍵も一緒に渡すよ。
合鍵なんかじゃない、オリジナルキーを渡すから受け取ってね」
「……さっきの合鍵渡せないって、それのためだったの?」
「実は、そう言うことです。
合鍵って相手に渡して別れたら返してもらうってイメージじゃない、それが嫌だったから。
智くんに最初に渡す鍵は、未来永劫一緒にいるって誓ったオリジナルキーにするって決めてたんだ」
「………なんだよ、翔くん男前だな!」
「ふふ、惚れ直した?」
「おう!また惚れちゃったぜ……
でもな翔くん、ひとつ言っておく事がある。
これを承諾しなきゃ一緒にくらせねえ」
「いきなり何?怖いんだけど…
まさか幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とすつもりじゃないでしょうね」
「それは翔くん次第だな」
今までほわほわ幸福に酔っていたパパの気が、一瞬で張り詰めたものに変わった。
緊張が伝わっておいらのヒゲがピクピクすんぞ?
「なんなの?言ってみて」
智の方もいつになく真剣な面持ちだ。
「翔くんが契約したマンションの代金、おいら半分払う」
「それはさっき気にしなくていいって言ったよね?」
「そうだな、でもおいらと翔くんが暮らす家だろ?だったら翔くんだけお金払うのおかしいじゃん。おいらからも鍵を渡したいよ、未来永劫を誓った鍵をさ。んで」
智はパパの肩を押して身体を離すと、パパの両手をきゅっと握った。
あれ?これさっきパパがしてたのと同じ体勢…
「櫻井 翔さん、一生涯をおいらと共に過ごして下さい」
「はい♡智くぅん……♡」
今まで見たことのない智の顔。
いつもは軟らかい雌?みたいな雰囲気もある智だけど、いまはもう、雄!!ってフェロモンが全開だよ。
同じ雄のパパだって智のフェロモンにやられてメロメロだぜ~ヽ(o´3`o)ノ
ん?パパはいつでも智にめろめろか。
そっか、そうだな通常運転ちゅーやつか。
その日の晩、『しー、おやすみ』と就寝の挨拶をしてパパと智は仲良く寝室に入って行った。
そしてその後はお約束のにゃんにゃんの時間。
真夜中の運動会はドッタンバッタン白熱していたようだ。
おいらが仔猫の頃、夜中に走り回って遊んでいたらパパは『しーちゃん!夜中は騒いじゃいけません!めっ!』って叱ったのに。
自分達は盛り上がって大暴れでもいいのか!
解せねえな。
でも翌朝、つやつやした2人がニコニコしながら寝室から出てくるのを見ると、おいら、まあいいか~と思うんだ。
パパと智が幸せならおいらは言うことねえし。
今日もタワーの一番上で過ごしている。
おいらの特等席だからな。
下では2人が飽きずにイチャイチャしてるさ、
パパと智が一緒に住みだしたら毎日がこんなふうに甘々なんかな。
何かおいら、胸焼けしそうだよ……