お山の妄想のお話しです。




駅前で彼女を探すのをやめた。
あそこにいれば彼女が現れる確率は高いだろうが、それ以上に障害が多い。
駅からの人混みですぐに彼女に近付けないことや、周りに寄ってきて話しかけてくる女の子達だ。
その子達は俺が彼女を追うときに非常に邪魔な存在になる。
故意に通さないようにしてるのか?と思わせるほど何重もの壁になり立ちはだかるんだ。
やっとの思いでそこから這い出る頃には彼女は遥か遠く……

この数日間、遠のく後ろ姿しか見ていない。
これではいけないと現状を打破することにした
ただ待つのではなく自分が動いて見つけ出す、
その方が建設的だ。

周りを意識しながら歩くと様々な趣向な店が多く、この街が若者に人気なのが伺える。
可愛いカフェや雑貨店、インスタ映えする店舗を巡るけれど彼女の姿はなかった。

今日は来ていないのかも、がっかりしながら駅方面に向かって歩く。
いつの間にかだいぶ駅から離れていたようだ。
途中良い匂いがしてそちらを見ると小さなパン屋があった。
匂いに誘われてショーウィンドウから中を覗くと美味しそうなパンが並んでいる。
本格派のパンや菓子パン、惣菜パンまで多種多様だ。
その中の小さな子供が好きそうなキャラクターのパンを見た瞬間に、記憶の中の優しい笑顔が甦った。

『しょうくんおいしいねぇ』
そう言って笑う可愛いひと。

『はい、しょうくんもたべてみて』
必ず俺にも分けてくれた。

俺が『おいしい!』って言うと
『しょうくんといっしょだから、もっともっとおいしいんだよ~』

にこっとほっとする笑顔、それを見るたびに俺はその人が好きになるんだ。
心がほっこり温かくなる優しくて愛おしい大切な想い出。

…………………バカだな、おれ。

運命の人だと感じた人を探しながら、あの人の事を想ってる。
これじゃあ、まんまあの人を諦める為に彼女を探すって構図に当てはまるよ。
こんなの2人に対して礼儀を欠いている。

自己嫌悪に陥りながふらふら歩いていると大きな交差点に差し掛かった。
車の往来が激しいから長い間待たされそうだ。せっかちな俺は少しでも早く渡りたくて、人の間を縫って前に出た。
最前列につき信号を見る、歩行者用信号の赤残り時間表示はまだ半分程しか減っていなかった
まだまだかかるなと少々うんざりしながら視線を前に戻すと、横断歩道の向こう側に佇む彼女を見つけた。

「     !     」

いつもの制服姿の彼女がぼんやりと此方を見ながら立っている。
距離はあるけど初めて彼女を正面から見た、ギャルメイクなのに優しげな風貌はやはり誰かを彷彿させる。

夢か?幻じゃないよね?
なんだか信じられなくて頬をきゅっとつねってみた。
痛い!マジ痛いし!
本物だ、本物の彼女が目の前にいる!
さっきまでの気分がまるで嘘のように、俺の心臓は歓喜のダンスを踊り始める。
これで彼女が俺に気付いてくれたら、
お互いが運命の相手なら、何らかのリアクションがあるはずだ。
ぼんやりしている彼女に俺は祈った。

こっちを見て、
俺を、
お願いだから、俺を見て!

すると祈りが通じたのか、車の往来を眺めていた彼女がふと俺に視線を移した。