お山の妄想のお話しです。




あの場所から遠ざかるにつれて、おいらの体調も回復してきた。
やっぱり精神的ダメージからくる不調だったんだろう、おいら意外とデリケートなんだな。

あおいちゃんは楽しい時間を切り上げて、送ってくれると言う。
おいらは申し訳なさでいっぱいだ。

「あおいちゃん心配かけてごめんな、でも本当に大丈夫だから近くの駅で降ろしてくれ」
「まだ顔色が悪いから駄目です」
「そんなことないよ、全然平気だし。
あ、岡田っちに連絡もしなきゃ!バイト放棄になっちまうかなあ」

今日のバイト代は諦めよう。だっておいら迷惑かけるばかりで働いてねえし。

「准一さんには先程智さんをお送りするとLINEしておきました。返信はありませんが現状は把握出来ているはずです」
「ご迷惑おかけします……」

ぼんやりしていて大人しいと思っていたあおいちゃんは、実はとても確りした子だった。

おいら年上なのにこんなで恥ずかしい…
しゅんとして下を向いていると、隣からくすりと可愛い音がした。

「ふふ、智さんて可愛いですね」
「 どこが!!」

可愛い子から可愛いって言われるのって物凄く恥辱じゃねえか!
つい、むうっと唇が尖ってしまう。
あおいちゃんは「そういうところです」ってコロコロ笑ってるし。

岡田と幼馴染みなだけでこんな件に巻き込まれて、とっても迷惑だろうに文句も言わないで協力してくれる。
ほんと優しくて賢くてとってもいい子だ。

そんな子を危険にさらす作戦を立てた岡田、おいらに女装させてあの街に行かせた岡田、そのせいで翔くんを見ちまってボコボコに凹んじまったじゃねえか!全部岡田が悪い!

「岡田っちのばか!」
「突然どうしたんですか?」

やばい、心の叫びが口から出てしまった…
あおいちゃんは驚いておいらを見てた。
全ての不運を岡田に責任転嫁してたなんて言えない。

「いや、あの、岡田っちのせいでこんな事に巻き込んじゃって、あおいちゃんに申し訳ないなと思って」

咄嗟にでた台詞だけど嘘じゃないよ

「いいんです、准一さんのお役にたてるなら
喜んで何でもします」
「え??何故にそこまで?」

なんでそんなに献身的なの?
もしかして……

「岡田っちのこと、好きなの?」

おいらの無粋な言に、あおいちゃんはぽっと顔を桜色に染めて答えを肯定した。

「そうです、初めて会った時から好きでした。
実は私と准一さんは子供の頃は婚約者だったんです、お祖母様同士が決めた事なんですが二人が亡くなった時に准一さんがお互い色々な経験をした方がいいだろうと解消を申し入れて、でも私はそれが嫌で……」

解消したとはいえ婚約者がいたなんて初めて知った、岡田は今まで一度もおいらにそんな話しをしなかったから。

「婚約していても色々な経験は出来るのに、どうして解消するのかと准一さんを問い詰めたんです。そうしたら…好きな人がいるって…」

岡田に好きな人がいたなんて、これまた初めて知った……
高校の3年間一緒に暮らしてたのに全然気が付かなかったぞ?
おいらがぼんやりしてたからか?

「婚約者がいて想う人もいるなんて両方に対して誠実じゃないから、それに私の事は妹にしか思えないって。すごくショックでしたよ」

ショックと言いながらもあおいちゃんはにこりと微笑んだ。

「でも私、とても諦めの悪い人なんです。
だから准一さんがその人にふられるまで待ちますって言っちゃいました」
「………強いね…」

こんなに可憐な子なのにすげえタフなんだな、
女の子って誰もがそうなんか?

「おいら岡田っちに好きな人がいたなんて初耳なんだけど、あおいちゃんは何処の誰とか知ってるの?」
「知ってますよ」
「マジで?誰?おいらも知ってる人かな?」

岡田の好きな人、興味ある。
あおいちゃんをふってまで想い続けるなんて、きっと美人でボインボインなんだろな

「知ってる筈です。でも教えませんよ」
「ええ~ケチだな」
「知りたかったら直接准一さんに訊いてくださいね、私の口からは言えないので」

そうだよな、プライバシーの侵害だもんな。

「でもヒントなら言えますよ」
「どんな?」
「優しくて、可愛くて、鈍い人だと准一さんは言ってました」
「なにそれ?外見的特徴は?」
「准一さんより細くて背も低いそうです」
「……ヒントになってないじゃん」

大多数の女の子は岡田より細くて背も低いぞ
やっぱり全然わかんねえや。

「でも、誰かわかったら応援してやろう」
「しないで下さいね」
「なんで?あ、そうかあおいちゃんは岡田っちがふられるの待ってるんだものな」
「ふふふ、そうです」

あおいちゃんは何故だか凄く楽しそうに笑う。

「智さんは本当に優しくて可愛い人ですね」