お山の妄想のお話しです。
きりりとした眉
はっきりとした二重瞼の大きな瞳
ふっくらとして形のいい唇
精悍な顔付き
スッキリした頬に子供の頃のあどけなさはないけれど、あれは翔くんだ
最後に見た中2の時よりも身長が伸びて体格もよくなっている。
体が小さいことを気にしていたけど、成長したんだな。きっとおいらより背が高いだろう。
かずから話をきいていたし、子供の頃から美形だったからイケメンだろう事はわかっていたけど、すげえイケメンになってたんだな。
あれじゃあ女の子が放っておかないのも納得出来る。
そんなもてもての翔くんが、周りに集まる子達を黙殺して只ひとりの女の子を探している…
ちくり。
ほら、またきたよ。
ちくちくちくちく胸が傷む。
もう忘れた、諦めた、翔くんが幸せならそれでいい、なんて無理矢理納得させた心が暴れだすんだ。
いままでは何とか堪えてきた。
でもさ、記憶の中2じゃないリアルな翔くんを見てしまった後じゃ、どうだろう?
だっておいら、カッコいいな、可愛いな、素敵だなってまた恋してる……
ダメだな、駄目だ!
おいら翔くんに嫌われてるのを思い出せ。
電話にさえ出て貰えない程拒絶されてるんだ、
また恋しても、今後何回彼を想っても報われることなんて無いんだから
何時もみたいに少しの間我慢すれば、吹っ切れるはずだ。
諦めろ、忘れるんだ、固く眼を瞑り俯いて心の中で何度も何度も繰り返した
それからどれ程の時間が経ったのか、強張ったおいらの背中に誰かが優しく触れた
「マキさん?大丈夫ですか?」
顔を上げると心配そうにおいらを見るあおいちゃんがいた。
「あ、ごめん。お店出るの?」
「いいえ、まだ2人は話してるから。
なんだかマキさん気分が悪そうだったから心配になって」
「おいら大丈夫だから、あおいちゃん戻って皆と話してきてよ」
「でも顔色が悪いです……」
「大丈夫だって、ちょっとパンケーキ食べ過ぎたかもだけど」
あおいちゃんを安心させる為におどけてみたけど、笑いがぎこちなかったかも。
あおいちゃんは暫くじっとおいらを見つめてから自分の席に戻って行った。
優しい子だ、心配かけて悪かったな。
おいらはあの子を護る立場なのにな、しっかりしなくちゃ。翔くんのことは今は本当に忘れて任務を遂行するぞ!
気合を入れるために両手で頬をバシバシ叩いていると。
「そんなに叩いたら頬が腫れます」
いつの間にか自分の荷物を持ったあおいちゃんがいた。
あおいちゃんはおいらの手を掴むとそのまま店の出口に向かう、え?え?どういうこと?
振り返ってお嬢さん達のテーブルを見ると残った2人が手を振っていた。
「お会計はマキさんの分も済ませてきました。
家の車で送りますから一緒に帰りましょう」
「でも、まだ行ってない店とかあるでしょ」
「そんな事よりマキさんの体調の方が心配ですから」
「ちょっと待って!マジで何ともないから!」
「ダメです。それにマキさんに何かあったら准一さんに叱られます…」
「ええっ?なんで岡田っちに?」
それ逆だよな?あおいちゃんになんかあったら
おいらが岡田にブッ飛ばされるんだよな?
あおいちゃんはぐいぐいおいらを引っ張って駅に向かって行く。
どんどんクレープ店の隣の人混みに近付く。
おいらは女の子に囲まれる翔くんを見たくなくて、そして自分の姿も見られたくなくて髪で顔を隠し足早に通り過ぎた。
「 待って!! 」
駅の構内に入ってから誰かに声を掛けられた気もするけど、たぶん関係ないだろうとそのままロータリーに停まっていたあおいちゃん家の車に乗り込んだ。