お山の妄想のお話しです。




月曜日の放課後からあの街で張り込むことにした。何時逢えるか分からないけれど、やれる事からしようと決めたから。

月曜、クレープ屋の横。
彼女が佇んでいた場所で待つことにした。
ここなら駅から出入りする人が良く見える。
1時間、2時間……
もうすぐ彼女が駅に消えた時刻。
今日は逢えなかった…

火曜、クレープ屋の横。
昨日と同じ時間と場所
辺りを見回して彼女を探す。
女子高生が多く、ジロジロ見られているのを感じる。こんな所に男がひとりで怪しく思われているかもしれない。
不躾の視線に耐えながら待つも彼女は現れなかった。

水曜、クレープ屋の横。
月、火と同じ。
俺の周りは女子高生ばかりだ。
昨日は遠巻きに見られていたが今日は近くに集まって来ている。
やはりジロジロ見られる、気分のいいものじゃない。興味津々な視線。
よせ、見るな俺はパンダじゃねぇ、心の中で悪態をつく。
口には出さない俺、大人になったな。
今日も彼女は来なかった。
少し挫けそうだ、まだ3日目なのに情けない。

木曜、クレープ屋の横。
昨日より周りは女子高生だらけだ。
そろそろ風に乗って漂ってくるクレープ屋の甘い匂いと、女子高生達のつけるコロンや香水の匂いに嫌気が差してきた。
気を紛らわす為に彼女の匂いを考える。
何故か瞬時にミルクの匂いが浮かんだ。
幼い頃、抱きついたさとしくんからもミルクのような甘い匂いがしたな……
いよいよ変質的になってきた。
この場所は俺に過度なストレスを与えるようだ。

「あの……」

色々うんざりしていると、 目の前に2人の女の子がいた。
まあまあ可愛い、清純派系?

「  なにか?」
「月曜からずっとそこにいますよね?
どうしてですか?どなたかと待合せ?」

なんで知ってるんだ?
俺そんなに目立ってたのかな。

「……人を探してるんだ」
「……女の子?」
「そうだけど」

2人は顔を見合わせている、何かを確認しあってるようだ。

「どんな子ですか?私達いつもこの街にいるから知ってるかも。お話し聞かせてくれる?」

あの店で、と近くのカフェを示される。
ちょっと待て、なんで俺がカフェに行かなきゃならないんだ!
話しは聞きたい、彼女に繋がるものがあるかもしれないから。
でも話すだけならここでいいだろ。

「俺、ここを離れられないから。ありがたいけど遠慮しとくよ」
「私達力になれると思いますけど!」
「じゃあここでも良くない?」

そう言うと彼女達から発せられる雰囲気ががらりと変わった。

「何様?ちょっとイケメンだからっていい気になってんじゃないよ!」
「私達がお茶しようって誘ってあげてるんだから行くのが当然でしょうよ」

清純派の衣を着た阿婆擦れでした。(漢字の方がちょっとソフト?)
態度を豹変させた彼女達を一瞥。

「……ふざけんな、お呼びじゃねえんだよ」

「お前がお呼びじゃねえよ!」

捨て台詞を残し雑踏に消える奴等。
外見では予想も出来ない人達でした。
ああいうのにコロッと騙される、男って哀れだなと実感したし。

遠巻きに俺等の会話を聞いていた子達も引いてたな。それが、俺か彼女等にかは分からないけどね。

今日も彼女に逢うことは出来なかった。
明日の金曜に望みをかけよう。


金曜、クレープ屋の横。
今日は何時もと違う。
この場に立ち始めてすぐに女子高生達に声をかけられた。

「1人ですよね?私達と遊びましょうよ」
「カラオケに行きませんか?」
「お茶しましょうよ」

なんだこれ、逆ナンの嵐だ。
俺は人を探してるんだと言うと、
『何日も待っているのに来ないんだから諦めた方がいい』
『会えないの?辛いね。私が慰めてあげる』
とか大きなお世話な返答ばかり。

どれだけ俺に関わらないでくれと言って追い払っても次から次に寄ってくる。
これでは彼女を探すどころじゃない。
きゃあきゃあ集まってくる女子達にイライラが爆発寸前な時、人混みの向こうに彼女らしき姿を見つけた。

以前見た制服姿の彼女が、もう1人の女の子と一緒に駅に入っていく。

「ちょっと退いて!」

目の前の女子高生達を押し退けて彼女を追うけれど、駅から出てくる人に遮られて中々近付くことが出来ない。

「 待って!」

大声で叫んでも彼女には届かない、周りの人達は迷惑そうに俺を睨むけど今の俺には気にならない。ただ彼女を掴まえたい一心だった。

彼女達は駅を通り抜け反対側の出口からロータリーに向かって進んでいく。
電車に乗るものだと思い込んでいた俺は焦った。

車に乗り込まれたら俺に止める術はない。

お願いだ待ってくれ!

俺の心からの願いも虚しく、
黒い高級車は彼女達を乗せて走り去った。