お山の妄想のお話しです。
3人で囲んだ夕飯は楽しいものだった。
潤と小栗君のテンポの良い会話(おいらはついていけない)の中で色々と知ることができた。
小栗君は潤より一つ歳上で同じ芸能事務所(潤はモデルをしている)で同じ学校なんだそうだ。
潤が島にいる頃から付き合いがあって仲良くしてもらっているみたい。
今日は2人で事務所に顔をだして、その後街をブラブラ。
夕飯どうする?ってなった時、家で食えと小栗君を誘ったらしい。
「だって本人がいいって言っても無償で智のバイトの手伝いなんて悪いじゃん。俺は身内だからいいけど、旬には何の得もないし」
「俺は智さんのお手伝いが出来ればいいの。それに潤の美味しい飯も食えたしな」
小栗君ってなんていい人なんだ。
「変な事に巻き込んじまって悪いな、バイトが無事終了したらおいらが2人になんか旨い物奢るから」
「マジ?じゃあ焼肉!」
嬉しそうな潤、おめめがキラキラしてるぜ…
しかし不安が過る、おいらのバイト料で足りるんか?
「お前ら凄く食いそう……」
「そりゃあ、育ち盛りだからな」
「俺は智さんの手料理でもいいです」
「じゃあカレーな!」
「旬、止めとけ。コイツのカレー激辛だから」
むう、激辛じゃねえやい、ちょっこっと辛いだけや!
♪♪♪♪♪♪
ワイワイ話しているとスマホの呼び出し音がした。鳴っているのはおいらのスマホ、この音はかずかな?
2人に断りをいれて席を立ちスマホを持ってリビングに移動する。
「もしもし?かず?」
『あんた出るの遅い、いつも暇なんだからかずちゃんの電話にはすぐに出なさい』
なんだよ、かずめ!おいらだって何時も暇な訳じゃねえぞ。そりゃあ大半ボーとしてるけど、たまには絵を描いたりしてるし。
「暇人で悪かったな!んで?今日はどうした」
『私も暇だったから相手でもしてやろうかと思って』
「なんじゃそれ!」
『べつに大した用事はないんですがね』
「そっか、じゃあまたな~」
『って待てや!何故すぐ切ろうとする!』
んふふ、かずとならテンポ良く話せる。
気心が知れてるからかな?
『最近何か変わったことありました?』
「バイト始めた」
『えっ!面倒くさがりのおじさんが働くなんて!どんなバイトなの?』
「んとな、女子高生の護衛」
『なにそれ、危ないバイトじゃないの?護衛ってどういうの?』
かずが心配しているようだからバイトの内容を話した、勿論女装のことは内緒だ。
『本当に危険じゃないの?嫌ですよあんたが怪我するの』
「大丈夫。おいら喧嘩強いし、それに助っ人もいるしな」
『助っ人?誰です?』
「潤と小栗君」
『小栗君?潤君の友達ですか?』
「そう、すげえイケメン」
『あんた嬉しそうだな、どんだけイケメン好きなんだよ』
「おいら美人も見るの好きだぞ、だって目の保養じゃん」
『でしょうね。で、そのイケメンとはどこで知り合ったの?』
「 え? 」
まさか、ナンパ野郎に絡まれてるのを助けて貰ったなんて言えねえし。
なんつったらいいんだ?
「う?ほら潤の友達だから家に来たりね。今も家で夕飯食べてるし」
『家にいるの!マジで!』
「うん、潤の力作のパスタ一緒に食べた」
『あんた、わたしとは会ってくれないのに他の男と楽しく食事なんて酷いやつだな!』
『こんなに頻繁に電話で話してるんだから会う必要ないだろ~話す事もねえし』
『本当に酷い男ですね!可愛いかずちゃんの顔を見たくないのかよ』
「 ………ないかな 」
『……今からお前んち行ってぶん殴ってやる!そんでそのままお泊まりするぞ!』
「んふふ、ごめんな。本当はかずに会いたいんだよ~、でも来んな」
『ひとでなしめ!』
くだらないやり取りが楽しい、でもかずと話していると、やっぱりどうしても翔くんの事が気になってしまうんだ
「ええと、あの、翔くんはどうしてる?」
『兄上様ですか?元気にしてますよ』
「そうか、ならいいんだ」
翔くんが元気ならそれでいい。
そう思っていると、あまり知りたくない情報がもたらされた
『ああ、そういえばあの人、付き合ってた人とお別れしたみたいですよ』
「え?また?」
少し前にもかずから聞かされたけど、またなの?
『なんで何時も続かないんでしょうね、おじさんどうしてか知ってます?』
「知る訳ないだろ、ずっと翔くんと会ってないんだから…』
もう何年も会ってないし、声さえ聞いてない。
そんなおいらが翔くんの恋愛事情なんてわかる訳がないし、わかりたくもない。
だって自分が惨めになるだけだろ
『わたしは知ってるんです、続かない理由を』
「なら翔くんに教えてやれよ」
『翔さんも気付いてるんです、でも意気地がないから駄目なんですよ』
『意気地がない?翔くんが?』
「そうです、そしてあんたもね」
おいらも?意気地無し?どうして?
訳が分からなくて戸惑う
『あんたらどちらかが勇気を出せば、万事丸く収まるんですがね』
「 ? ? 」
かずの言葉は、おいらの理解の範囲を越えていた。意味不明?
『全く…手のかかる兄達を持つと苦労が絶えませんよ。リアルの方はまだジタバタ足掻きやがるし…』
「じたばた?」
『あ、こっちの話しですから気にしないで。
長々話してしまいましたがそろそろ私も戦いの時間なので切りますよ、潤君に近いうちに会いましょうと伝えておいて。じゃあ、また』
かずは云いたい事だけ言うとゲームの為に電話を切った。
おいらはもう一度「意気地無し」について考えてみたけどサッパリ分からなかった。