お山の妄想のお話しです。
イケメンが2人、目の前で難しい顔をしている
何回もスマホの画面とおいらの顔を見比べ、
そして小首を傾げる。
「何て言うか、同じようで違うんだよな」
「そうだな。前がコテコテで今日がナチュラルって感じかな。ケバさがない。俺は今日の方が好きだな」
「旬、お前の好みは聞いてないから」
2人はぶつぶつ言い合っているけど、結局どうなん?これでいいのか?
それとも改善の余地有りなんか?それが知りたいんだが。
やっぱお金を頂いてする仕事、完璧にこなしたい。しかもおいらは『マキ』になりきるつもりだから妥協は許されない。たぶん。
「なあ、どうなんだよ、このメイクでいいんか?」
「ああ、大丈夫、絵を描くから色彩感覚がいい。上手く出来てる」
「この前は少し塗りすぎ感があったけど、今日は完璧に女の子がするメイクですよ」
ん?どういう意味?前のが舞台化粧で今日のが普段使いみたいな感じか?
「男だってバレないかな?」
「安心しろ、この完成度じゃ多分ばれない」
「そっか、なら次からはこのメイクでいく」
「ああ、ただ声だけはなんとかして。喋らないのが一番いいんだけど」
「おいら普段から喋らないから大丈夫」
「ふふ、ならいいけど。さてと、俺は夕飯の支度するから智は化粧落としてこい。旬は適当に寛いでてくれよ」
潤はササッとエプロンを着けるとキッチンに消えていく。
おいらも化粧を落とすために洗面所に行こうとしたら、小栗君にちょっと待ってと呼び止められた。なんだい?小栗君?
小栗君は鞄の中から何かを取り出して、おいらに差し出した。
それは可愛いくラッピングされた小さな袋だった。
「これを智さんに着けてもらいたくて」
なんじゃ?と受け取って袋を開くと中から黒い物体?が出てきた。
黒く細い糸で編まれた長方形のものの両端に金具が付いている。なんだこれ~
「チョーカーです。前はスカーフで隠してたでしょ、なんだか似合ってなかったから。それにこれから暑くなるからスカーフじゃ悪目立ちしますからね」
ちょーかあ、あれか、首につけるやつ?
「着けましょうか?」
チョーカーを渡すと小栗君はおいらの近くに寄って首筋の髪を払った。
そして「少し上を向いて」と顎に手を添えられくいと上げられる。
それからおいらを抱え込むように両腕が回されて首にチョーカーが着けられた。
「喉仏も違和感なく隠れたし、凄く似合う」
うん、と頷き満足そうだ。
自分では確認出来ないけど、おいらの立派な喉仏さんが上手く隠れたのなら文句はない。
それよりも、この状態は?!
おいらを見下ろし甘く笑うイケメン。
手を両肩に置かれ見上げるおいら。
なにこれ?
これで目を閉じたらキス待ちってーやつ?
うはは、うける。
色男とヨレヨレTシャツ短ジャージのギャル、
(しかも中身男)なにこの絵面面白すぎる
「おい、お前ら!俺が夕飯作ってるのになに遊んでんだよ!」
端から見た図を想像してニヤニヤしていたら
潤に怒られちまった。
「智はさっさと行け!旬は俺を手伝え!」
「あれ、俺はお招ばれしたんじゃなかったの
か?」
「お前を野放しにしたら危なくてしょうがない、家の可愛い子豚ちゃんが狼に喰われたら困るからな」
「え、おいらんち子豚いんの?」
「あ~もう!お前は黙れ、そして行け!」
びしっと洗面所を指差される。
おいらはお口にチャックをして素直に潤に従った。
「 もう少しでひと口齧れたのに…残念だ」
「いや無理だな狼君。うちの子豚ちゃんはそんなに簡単じゃない」
「いい雰囲気だったけど」
「そう思ってるのはお前だけ、あいつは微塵も感じてないよ」
「そうかな」
「あいつは自分に向けられる好意に鈍感なの。
それにずっと想い続けてる人がいるし、お前がどれだけ頑張っても無駄なことだよ。
だからもう子豚にちょっかい出すな」
2人はまだ子豚の話に花を咲かせているみたいだった。