お山の妄想のお話しです。




週末、潤は友達とお出掛け中。
おいらは今家にひとりだけ。
やるならいまだ、製作過程を見られるのはかなりこっ恥ずかしい。

洗面台の鏡の前で自らの顔をキャンバスに、ぬりぬりペタペタ……
強面のお姉さま達のくれたメモを見ながら悪戦苦闘。
あれ?ベースってどれだ?マスカラ?マラカス?あ、マスカラが正解!

悪戦苦闘の末、何とかメモ通りに完成。
でも前と違う仕上がりのような……
そこで前回の化粧の後に写真(確認用)を撮られた事を思い出して見比べてみた。
そこで気が付く、おいらズラ被ってないわ
鏡面には前髪をピンで留めた短髪、ギャルメイクの男。
このまま外に出たら子供連絡網メールの不審者情報で流されるレベルだわ、やべえぜ。
ズラを被ってもう一度スマホの写真と見比べる
やっぱりどこか違うような……でも、自分じゃイマイチわからん。

何故おいらがバイトの日でもないのに化粧かって?決してそちらに目覚めた訳ではございません、練習だよ、練習!
次からは自力で女装しなきゃならないから、短時間で出来るようにしねえと不味いんだ。
メイクの仕方は解ったけど仕上がりがなぁ
これはもう誰かに確認してもらわねば、誰かって?潤しかいねえけどさ
でも潤何時帰ってくるんだ?ずっとこのままはキツい、つうか嫌過ぎる。
でも潤が帰ってからもう一度も面倒臭いから
諦めてこのまま待つ事にした。
時刻は2時、夕方には戻って来るだろ。
おいらはズラだけとって描きかけの絵を仕上げる事にした。




がちゃり
玄関の開く音に我に返る、集中して描いている間にいつの間にか辺りは薄暗くなっていた。

「ただいま。あれ?智いないの?」

部屋が暗かったせいか、おいらがいないと思ったのかな?
そうだ飛び出して脅かしちゃれ!
イタズラ心に火が着いたおいらは潤が部屋の前を通るタイミングでドアを開けて飛び出した。

「ばあっ!」
「うわっ!」

ライトを点けたらしく廊下は明るい、目の前で潤が驚く顔が見えた。
やったぜ、大成功!潤の驚いた顔はレアだ。
んふふと悦に浸る。

「お前なにやってんだ!」
「へへ、びっくりした?」

驚き顔から不機嫌な表情になった、あ~この顔は良く見る。だいたいおいらがやらかした時はこんな顔。

「なんだよう、ちょっと脅かしただけなのに」
「それは驚いたけど、そっちじゃなくて、なんて格好してんだよお前!」

はあ?格好?服を見る、いつものTシャツとこれまたいつもの短ジャージ(高校時使用)
普段と同じだが?

「違う!顔だよ、顔!」

顔?ああ、そうか!

「ズラ被るの忘れた!」
「それもあるが、違くて、なんで化粧してんだよ!」

ああ、そっちか。
あんな、練習してたんだよ。
斯々然々、いきさつを話す。

「成る程な。わかった確認してやるから、ウイッグかぶってこい。俺は荷物をキッチンに置いてくるから」

そう言って潤が目の前から退く、すると後ろにもう1人いるのに気が付いた。

「あれ?小栗君?」
「おじゃまします、智さん」

今日も甘いマスクでにっこり笑顔。
私服も男前やな~

「ショートの髪でも似合っていてとても可愛いですよ」

おお、やはりタラシ的な台詞爆発。

「おい旬、そういうセリフは女の子に言え。前も言ったけどうちの智に言うのはやめてくれ、なんだか智が喰われそうで本気で心配になんだよ」

物凄く嫌そうな潤、それに対し笑顔の小栗君。

「潤の大切なお兄さんに不埒なまねはしないよ、ただ俺は可愛いものは可愛いって言う主義だから」

おいらにパチンとウインク。

ふむふむ、そうやってキミは女の子を落とすのだな。なるほど、上級者は違うな~
パイセン、勉強になります!なんつって。
でもおいらには無駄なテク。使えないし使う機会もねえからさ。

「お前なあ……もういいからあっちに行って座ってろ。智は早くウイッグ被ってこい」

潤が小栗君にはリビングに行くように促し、おいらにはヅラを被ってこいと命じた。

はいはい、潤くんの御機嫌がもっと悪くなっちゃう前にお兄ちゃんはズラ被ってきます。