お山の妄想のお話しです。






あの日から数日間、俺は放課後あの街に向かった。彼女が本当に運命の人なのか確かめたかったから。
そこで数時間待ってみたが彼女はおろかあの制服の生徒さえも現れることはなかった。


今日も空振り。
ガックリと肩を落とし帰宅する。
玄関の扉を開けると中から騒がしい声が聞こえてきた、かずと雅紀か?

「ただいま」

リビングを覗くとやっぱりかずと雅紀で、2人はテレビゲームに興じていた。

「お帰りなさい、翔さん」
「翔ちゃんお帰り~」

余程熱中しているのかこっちを見もしない、
俺はどっと疲れが押し寄せて来てそのまま自室へと向かった。

制服から部屋着に着替えてベッドにダイブ
考えるのは彼女のこと。
今日も会えなかった……
明日は土曜、人出は今日より多いし休日に制服では来ないだろう。
それでも俺は彼女を見つけることが出来る?
運命の人なら見つけられる?
……………なんだか自信がない。

そんなんじゃダメだと彼女の顔を思い出してみる。遠目からだけどハッキリと見たはずた。

びっしりと生えた長い睫、目尻の下がった優しげで綺麗な瞳、すっと通った鼻筋、そして薄くて小さい唇……


…………あれ?

全てのパーツを並べたら、あら不思議!
なんだか智くんになっちゃった。
どんだけ智くんが好きなんだよ、俺!
いや、好きだよ凄く好き。
だけれども、今は彼女の顔を思い出していたはず。

もう一度、よく思い出して……
優しげな瞳、通った鼻筋、小さい唇……
………………。

…………やっぱり智くんが完成。

「駄目だ!」

彼女はギャルメイクだった、ばっちりメイク顔
だったのに…
なんでか素の智くんに脳内で変換されてしまう。俺、もう末期なのかも……

何でだぁぁと頭を抱えてベッドの上をのたうちまわる

「なにが駄目なんですか?」

突然近くから聞こえた声に驚いて顔を上げると
侮蔑した顔のかずが立っていた。

「わっ!なんでここにいるの!」

いくら弟でもプライバシーの侵害!!

「何度もノックや声掛けをしたのに、全然反応がないから入ったんです」

焦る俺にかずは冷然と答えた。

「そうなの?」
「そうです。翔さんこそ何ですか?ドアを開けてみればゴロゴロとベッドの上を転げ回ってるし、髪はボサボサ部屋着はダサい、奇奇妙妙極まりないですよ」

そんなに妙な動作だったのか?でも後半はただの悪口だよな。

「奇奇妙妙で悪かったな。で?何か用事があったんだろ?」
「当たり前です、用事がなきゃこんな汚い部屋に来ないですよ」

嫌そうにかずが足元の雑誌をつま先でつついた。

「相葉さんが翔さんにとても重要な話があるそうです、早く聞いてさっさと家に帰してください。あの人がいると落ち着いてゲームが出来ないんです」

さっきはあんなに楽しそうにしてたのに、雅紀哀れ!
かずは雅紀に対してツンデレ(ツン多め)だからしょうがないか、本当は大好きなのにな。

「わかった、すぐに行く」
「身なりを整えて、さっさと来てください」

まったく、こんな人をカッコいいとか言う人の気がしれない…ぼそりと呟いてかずは部屋から出て行った。

それに関しては同意する。
カッコいい、真面目、優しい、とか言う奴等は俺のどこを見てるのか。
本当の俺はカッコ悪いし、言われる程真面目でも優しくもない。

負けず嫌いで気が強く高い所が苦手、そして好きな人に嫌われたくなくて告白も出来ないし会うことも出来ないヘタレだ。

こんな俺を理解してくれるひとがいるのかな?
本当の俺を好きだと言ってくれるひと
ひとりだけでいいんだ。



それが智くんだったら良かったのに…





今まで何回も呟いた言葉。
この後もずっと呟き続けるのかな…