お山の妄想のお話しです。





少し目を離した隙に彼女の姿は忽然と消えていた。
『運命の人』だと思ったのに、こんなにすぐに居なくなるものなのか?!


「翔ちゃん、運命の人だもの絶対また逢えるって!それにオレあの制服見たことあるんだよね、学校で女子にも訊いてみるからさ絶対に諦めちゃダメだよ!」

そう言って雅紀は帰って行った。
雅紀の高校はスポーツに力を入れているから他校との交流が多いんだ。
どんな些細な事でも彼女に繋がるなら手繰っていきたい。


「ただいま~」
「おかえりなさい、翔さん」

家に着いてリビングに入るとソファーに寝転び弟の和也がゲームをしていた。

「今日は遅いんですね」
「ああ、ちょっと寄り道してて」
「 ………デートですか?」

相変わらすゲームから目を離さないけれど、なんか言葉に険があるような?

「いや、雅紀と会って話してきた」
「なんだ、相葉さんか」

今度は何だか安堵したような感じだ。
てか、なんだはないだろ。

もともと雅紀はかずの友達だ。
智くんと潤が引っ越した時、かずは近くの別の家に移るのだと思っていたらしい。
誰もかずに智くん達が遠くに行ってしまうとは言っていなかったから。
だから小学校も智くんや潤と通えるって楽しみにしていた、でも入学式に潤の姿がなくて……
そこでやっと気が付いたんだ2人が近くに居ないことを。
落胆からかかずは不登校気味になった。
それではいけないと、朝は俺が学校まで引きずる様に連れて行った。
でも俺に出来るのはそこまでで、その後の時間は何もしてやれなかったんだ。
クラスで1人、下校時も1人。ひとりぼっちだ。
そんなある日の帰り道、雅紀に出会ったらしい。
雅紀は公園の片隅でカラスにいじめられている仔猫を助けようと奮闘していたが、如何せんカラスの数が多すぎて劣勢だった。
そこに通りかかったかずが持っていた傘を振り回してカラス達を追い払ったそうだ。
そこから2人はどんどん仲好くなり、雅紀の明るさに触れて、かずももとの人懐こい性格に戻り学校に馴染んでいったんだ。
言わば雅紀はかずの恩人。
(雅紀はかずをオレと仔猫の命の恩人と言っていたが)
なのに扱い雑すぎないか!?

「で、相葉さんと何を話したんですか?」
「普通に近況とか?」
「ほば家と学校を往復するだけの翔さんに人に語れる近況があるんですか」

なんだか俺の扱いも酷いな。

「あ~、学校の事とか……付き合ってた人と別れた事とか」
「別れたんですか……」

かずは徐にゲーム機を閉じると居住まいを正して俺をみた。

「翔さんそろそろ止めたら?
告白されて心もなく付き合うとか無駄なこと、
続かないのはあなたの中に他の誰かがいるからですよ。自分でも解っているんでしょ、なんで認めないんですか?あなたのしたことで確実に誰かが傷ついているんですよ」

いつになく辛辣な言葉。
自分でもわかってるさ、でもあの人に俺の気持ちは言えない。
優しいあの人は俺を無下に出来なくて困惑するだろう。困らせるのも嫌われるのも嫌なんだよ。
だからあの人の代わり、いや、あの人と同じくらい好きになれる誰かを探しているんだ。

「  ………わたしの話し聞いてます?  」

黙り込む俺にかずの刺々しい声がグサグサ突き刺さる。

「聞いてます、あまりの正論に返す言葉がないだけです…」

しおしおした姿の俺にかずはふんと鼻を鳴らすとソファーから立ち上がった。

「翔さんの一挙一動に心を痛める人がいるんです、それを覚えておいてください。
しかもそれはわたしの大切な人なんですから…
これ以上悲しませたら只では置かないですよ、撫で肩め」

「はぁ?!なに?」

それ誰のこと?只じゃ置かないって何されんの?それに撫で肩関係無くない!!
突っ込みどころ満載だけれどもかずの鋭い一睨に黙るしかない。

「わからないんですか?わたしの大切な人は翔さんにとっても大切な人ですよ。
……あなた達はいい加減話し合った方がいいんですよ。まったく世話がやけるんだから」

最後の方はぼやきながら、かずはリビングから出ていった。

1人取り残された俺はぼんやり考える。


あなた達、って誰のことだろう?