お山の妄想のお話しです。




岡田の部屋にいたお二人は夜になると華麗(?)に変身なさるおネエ様達だった。

彼女(?)等曰く
「夜の街は危険なのよ、だから自分の身は自分で守らなきゃならないの」
「そうなの、だから何か護身術を習おうってなってここの道場に通わせて頂いてるの」

この道場に決めたのは門下生にイケメンが多いことと岡田がタイプだったからだそうだ。

どこでもモテモテで羨ましいな岡田よ(笑)

しかし、俺の置かれた状況はのっぴきならないものだ。

「どんなメイクにするぅ?」
「お顔が可愛いし、お嬢様学校の生徒の護衛でしょ?やっぱり清楚系でいく?」

彼女(?)達はおいらに化粧の仕方をレクチャーする役割りだそうだ。
もう女装は決定らしい。
ならばおいらも腹を括るしかない。

「女装しなきゃならないなら、絶対においらだってわからない様にしてくれ」
「ええっ、こんなにいい素材なのに~
殺しちゃうのぉ、勿体無い」

素材がどんなか知らんが殺してくれ。
誰も「大野  智」だと気が付かない、そんな姿にしてくれ。
だって、バイトで向かう街は南に引っ越す前まで住んでいた街に近い。
もしかしたら昔の俺を覚えている奴がいるかもしれない。
女装?とんだ変態だって、あいつの耳に入るかも……
嫌われてるのに、今度は軽蔑というオプションもつくのか……
そんなん、もう駄目じゃん。
おいらもう世を捨てる。坊さんになるしかねぇよ。

「何で?何か理由があるの?」

おネエ様の一人が優しく聞いてくれる。

「フラれた人が近くに住んでんの。俺だってバレたくねぇ。これ以上嫌われたくないんだ」

おネエ様達には悪い言い方だけど俺の本心だ。ごめんなさい。

「 ………そっかあ、わかった。あなたも辛い恋してるのね……」

おネエ様①の瞳にチョロっと光る何かがあった。

辛い恋?そうかな?でも終わってるから。
アイツから距離を取られて音信不通になった時にもう終わってんだよ。

「泣いちゃ駄目!私達はストレートに嫌われながらも本当の愛を探し求める旅人なんだから」

おネエ②が①の肩をガッと抱いて叫ぶ。

「そうよね、いつか七つの海を旅してワンピースを手に入れるのよ!」

ONE PIECE?確かひとつなぎの財宝だったような?そうか、海賊になるのか、逞しいおネエ様より海賊の方が似合ってる。がんば!

ほぇ~っと二人を眺めていると、いつの間にか隣に来ていた岡田が呟いた。

「まだ忘れられないのか?」

岡田は従兄弟であって数少ない友人でもある。
だいぶ 前にフラれているのにいつまでも引きずるおいらを慰めてくれた優しい奴だ。

「忘れられないって言うか、あいつの口からハッキリ拒絶してもらわんと先に進めないんだよ。でもやっぱキツい言葉は聞きたくねぇ。おいら小心者なんだよな」

そっと、ごつごつした岡田の指がおいらの頬を撫でる。

「もう忘れたほうがいい。新しい恋をしろよ。
お前鈍いから気が付いてないだろうけど、すげえ近くにいい物件があんだよ。そろそろ気付けよ……」

両手で頬を包まれて、上を向かされる。
目の前の近い場所に真剣な目をした岡田の顔があった。

おお、岡田め。やっぱり男前やな~とぼんやり見つめているといきなり目の前にごっつい手の平が現れた。

「ちょっと、何してんのよ!ダメダメ終了!」
「そうよ!良い男が二人でいいムードとか、無いわ。御法度!斬首よ、斬首!改めなさい!」

ぐいと肩を引かれて岡田から離される。
その瞬間ちっ、という舌打ちが岡田から聞こえた気がした。



数時間後、出来上がったのは『ギャル』と呼ばれるものだった。

長い髪のズラを被らされ、アイシャドウはこれでこう、リップはピンクでその後グロスを塗ると、顔の上に地層のように化粧が施される。

化粧を終えたおいらの顔は、ほんの少し目元とほっぺたに大野智の片鱗をうかがわせる程度になった。

「くやしいけど、滅茶苦茶可愛いわね」
「ギャルなのにほんわり感がたまらないわ」
「俺が見込んだだけはある」

誉められているようだが普通に嬉しくない、なんかスカートすーすーするし。