お山の妄想のお話しです。






「なんじゃこれ!!」

目の前に広がる光景にそう言うしかなかった。




バイトを承諾した次の日、所属する格闘技同好会の部室まで来いと岡田から呼び出しがあった。
バイトの詳細か?と部室に入ると中には岡田がメジャーを持って立っていた。
何故にメジャー?

「おお、大ちゃんよく来たな」
「お前が呼んだんだろ、バイトのことか?」
「そうなんだ、もっと近くに来てくれるか?」

クイクイと手招き。
メジャーを謎に思いながらも岡田に近付く。

「じゃあ、取り敢えず脱いで」
「へぁ?」

我ながら間抜けな声がでちまった、聞き間違いか?脱げ?なにを?

「上だけでいいから、さっさと脱げ」
「なぜ?」
「サイズを測りたい」
「どうして?」
「大きすぎたら萌えだし、小さかったら着れないだろ」
「なにゆえ?」
「お前がバイトの時に着る服の準備だよ」

なるほど。
服まで用意してくれるのか、ありがとう岡田。
実はおいら、服どうしよと思ってたんだ。

おいら衣装持ちじゃねえし、殆どTシャツとジーパンで女子高生の側にいても違和感がない小洒落た服なんてない。
用意してくれるならそれに越したことはない
ありがたやありがたや。
萌え、の意味はよくわからんが…

言われた通りにTシャツを脱ぐと「相変わらず細いし薄いな~」なんて言いながら岡田がてきぱきと測っていく。
ウエストを測って終了した。

「これでよし。ジャストサイズを用意できる。
大ちゃん楽しみにしてろな」

いつにもまして笑顔の岡田。
なんか気持ちわりい、こいつなんか企んでる?
まあいい、用が済んだなら帰るか。
じゃあなと部室を出ようとした時に岡田が思い出したように言った。

「あ、バイトは明後日からだからな。それまでに脛毛の処理しとけ」

んん?今なんと仰いました?

「すねげのしょり………?」
「そう、抜くなり剃るなりしてツルツルにしとけ。このバイトの重要事項だからな」

おいら脛毛は薄い方だと思うけど(ありんこはできない)バイトと脛毛の関連性が全くわからん。
でも訊くのが面倒だったから「おー」と適当に答えて部室を出た。



バイト初日。

バイト開始時間は夕方のはずだがお昼過ぎに家に来いと言われた。
家とは岡田の実家、じいちゃん家だ。
じいちゃんにはとても世話になっている。
今俺が住んでいるマンションも岡田家所有の物だし、高校入学と同時にこっちに戻った時はここの離れに住まわせて貰っていた。
今でもちょくちょく寄らせてもらっている、第2の実家みたいなもんか。

「こんちわ~岡田っち居る~」

岡田家は大きな日本家屋。その立派な玄関をカララと開けて奥に向かって声を掛けた。

すると「あら、智ちゃんいらっしゃい」とにこにこしながら伯母さんが出てきた。いつ見ても美人だ。

「さあ入って。准一はお弟子さん達と部屋にいるわよ」
「お弟子さん?道場の?」
「そうなの、稽古なら道場だろうし…
何かあるのかしら?」

じいちゃんは岡田家の広い敷地内で拳法道場を開いている。
岡田は幼い頃からじいちゃんに師事して今では師範代クラスだ。
おいらもじいちゃんに稽古をつけてもらったけど「智は型に嵌まらん方が動きが良い」と言われて級やら段やらを取らないで自由気ままにやっている。

「わかんないけど、行ってみる」
「何か用があったら言ってね」

そう言って伯母さんは奥へと戻って行った。
おいらは岡田の自室に向かった、でも頭の中は?マークばかりだ。
お弟子さんて誰だろ?バイトに関係あんのかな?

「岡田っち~入るぞ~」

扉をコンコンノックすると中から「おう」と岡田の声がした。
中に入ると岡田とガタイの良い男性が二人座っている、お弟子さんか?見たことない人達だな。

まあ座れと置いてある座布団に座らされる。
目の前に岡田、両脇にお弟子さんで車座に座った。

武道の基本は挨拶からだ。

「こんにちは」
「「こんにちは~」」

初対面の二人からは身体に合わない高めの挨拶が返ってきた。
それから「可愛い顔してるわ~」とか「お肌つるつる、ノリがよさそう」とか言っている。

なんだ?意味がわからん、しかもオネエ口調だし。
目の前の岡田にこの人達は何なんだ?と表情で問えば

「バイトの事でこの二人に色々教えてもらうんだよ、お前が」
「教えてもらう?何を?」
「化粧とか、セットの仕方とか」

ちょっと待て、女子高生護衛のバイトにどんな関係があるんじゃい!
意味がわからん!と文句を言おうとしたところで岡田が近くに置いてあった紙袋の中身を取り出した。

「これ、バイトの衣装」

目の前に並べられる服たち
ブラウス、カーディガン、黒のソックス…
そして、スカート…スカートって!!
総じて女子高生の制服


「なんじゃこれ!!」


そりゃ、言うだろ