お山の妄想のお話しです。
4月、年長組になった。
少し前までは園に行くのが楽しみだったのに今では行きたくないと思う時もある。
だって探してしまうから…
もしかしたらおさかなぐみのお部屋でお絵かきをしているかも……
お庭の隅で蟻さんの行列を眺めているかもしれない……
でもどこを探したってさとしくんはいないんだ…
さとしくんは俺と会えなくて寂しくないのかな……
会いたいって、思ってくれないのかな……
もしかして、もう俺のこと忘れちゃったのかな……
寂しくて悲しくて、沈んでいく心
落ち込む俺に先生達は『翔くんは大好きなお友達がいなくなって寂しいんだね。でも、ほら、お友達はたくさんいるじゃない。みんなと楽しく遊ぼうよ!』って言う。
確かに友達はたくさんいるよ、前に嫌がらせをしてきたあいつらとだって今は一緒に遊んでるし、でもさとしくんとは違うんだよ
さとしくんは『大好きでとっても大切でずーと一緒にいたいお友達』なんだよ。
……さとしくんのフニャっとした笑顔が見たい…
『しょうくん』って呼んで!声が聞きたいんだ…
さとしくん
心にヒューヒュー風が吹いていて寒いよ…
さとしくんの隣でほかほかあったかい気持ちで笑っていたいよ……
会えなくなってまだ1ヶ月程なのに俺は重大なさとしくんロスに陥っていた
そんなある日、俺は年少組に入った弟のかずと母親のお迎えを待っていた。
かずの横には同じ『ひかりぐみ』で仲の良いじゅんくんがいてやっぱりお迎えを待っていた。
『じゅんくんにこにこだね』
いつになく上機嫌なじゅんくんにかずが言う。
(いつもはまだ遊びたいのに!ってちょっと不機嫌)
『きょうね、おにいちゃんがおむかえにくるの!』
じゅんくんの大きな瞳がキラキラして本当に嬉しそうだ。
『おにいちゃん?じゅんくんおにいちゃんいるの?』
『いるよ!このまえまでおさかなぐみさんだったの』
弟たちのおしゃべりを聞きながらおさかなぐみの男の子達を思い浮かべてみる。
おさかなぐみ……じゅんくんに似たこいたかな…
じゅんくんみたいなアラブの王子様風のこはいなかったはずだけど……
でも俺、さとしくんしか見てなかったからもしかしたらいたかも。
そこではたと気がついた。
もしかしたらじゅんくんのお兄さんはさとしくんのお家や小学校を知ってるかもしれないと。
知っていたら教えてもらって……
……さとしくんに会いに行ける!!
曇天の様だった俺の心に希望と言う一筋の光が射した!
さとしくん待っていてね、絶対に会いに行くから!そしたらまたやさしい声でしょうくんって呼んで…
『しょーくぅーん』
そう、こんなちょっと舌足らずな呼び方で
『しょーくーん』
こんな可愛い声で
『しょーくーーん!』
え?!幻聴?!
慌てて声のする方を見ると、さとしくんが…
会いたくてしょうがなかったさとしくんが…
大好きなさとしくんが…
笑顔で俺に向かって駆けてきていた。
『~~~!!』
俺は持っていた荷物を投げ捨てるとさとしくんに向かって猛ダッシュ、そして抱きついた
『しょうくん、あいたかったよ』
ずっと見たかったふにゃふにゃの笑顔で嬉しい事をいうからギュウギュウ抱きしめながらちょっと泣いちゃったさ。
なんとさとしくんはじゅんくんのお兄さんだった。(全然似てないけど)
俺達の感動の再会を見ていた母達は
『お世話になってます~』から話し始めいつしか意気投合して連絡先の交換までしていた。
そして家族ぐるみの付き合いが始まり、さとしくんと何時でも会えるという安心な日々を過ごせるようになった。
幼少期の俺の暗黒時代はひとつき程で終わりを告げた。
しかし、数年後さらに酷しい暗黒時代が待ち受けているのだった……