お山の妄想のお話しです。




それからの俺はさとしくんの事をもっと知りたくて、お昼休みや自由時間はおさかなぐみに行くようになった。

そこで色々なさとしくんを知る事が出来たんだ。

最初に知ったのは『さとちゃん』は実は『さとしくん』だったこと。

ほわほわな雰囲気と優しい顔立ちだったから女の子だと思い込んでいたけど、一緒にいて意外と漢らしい人だとわかった(笑)
だから『さとしくん』に変えたんだ。

さとしくんは無口だった。
ジャングルジムの件では結構話し掛けてくれたけど、本当は話すのが得意じゃないみたい。
じゃあ、なんであの時話し掛けてくれたの?
って聞いたら
『しょうくんが泣きそうな顔でジャングルジムにいたから何とかしなきゃって思った』
だそうだ。
ううっ、優しい!

それからさとしくんは1人でいる事が多かった。
でもハブられている訳じゃなくて、皆がさとしくんの邪魔をしないようにしてたみたい。
黙々と絵を描いたり、ねんどで何かを作っている時には近付かない。
で、終わった頃寄ってきて出来上がった作品を鑑賞する。
『すごいね~』
『かっこいい!』
皆に褒められて『んふふ』ってはにかんだように微笑むさとしくんはとっても可愛かったな。

外で遊ぶ時だってもちろんある。
そんな時は泥んこになって皆と遊ぶ、で、たまにちょっと危ない事をして松岡先生(おさかなぐみ担任)に怒られる。

とにかく一緒にいるのが楽しくて、その年の園の行事はずっとさとしくんといた。

夏のお祭りはかき氷をはんぶんこして食べたり、先生達の手作りお化け屋敷に2人で入ったり(出口で撮影されたのは満面の笑みのさとしくんと、さとしくんの手を両手で握って半べその俺の姿だった……)

秋の遠足(近くの公園)は一緒に行けなかったけど(年長さんは年少さんと手を繋いで歩くから)
お弁当はシートを並べて2人で食べた。

冬の『文化発表会』では俺は白雪姫の王子様役でさとしくんはちびくろサンボのトラ(バターになるやつ)役を熱演した。
王子様役の俺をさとしくんは
『しょーくんカッコいい!』
と絶賛してくれた。( 勿論白雪姫にチューなんてしなかった)
さとしくんのトラはトラ耳カチューシャが超cute!!

楽しかった、だから忘れてたんだ。

さとしくんが卒園してしまうことを。


3月……
さとしくんは卒園してしまった。

園に行けばいつでも会えたし、子供だったから家の場所とか電話番号なんてきくことはなかった。

さとしくんにもう会えない……
絶望しかなかった……