お山の妄想のお話しです。







智くんと出会ったのは幼稚園の年中のとき。

その頃俺は同じ組の男児の一部から嫌がらせのようなことを受けていた。
理由はわかっている。
年中になってちょっとませた女の子達からちやほやされる様になったからだ。

『しょうくんカッコいい』とか『しょうくん大好き』なんて言ってわらわらと集まってくる。

挙げ句の果てには俺を廻っての大喧嘩。

その騒ぎに俺はドン引きだったけど、周りで見ていた奴等には『なんだあいつ!』って反感買いまくりだったみたいだ。

年少の時には仲良く遊んだ仲間の態度が急に変わる。
敵対心を表してくる…

『なんで!?僕のせいじゃない!』

何度も訴えたけどダメで、そいつらからのあたりは強くなる一方だった。

何度かの嫌がらせを受けたとき、俺の中で『もういいや』って気持ちになった。
こんな奴等と仲良くしなくたって新しい友達は出来る。
嫌がらせをされても受け流すことにした。
相手にしないのが一番有効。

でも、どれだけ無視してもあいつらにはきかなかった。
『こんなの出来ないだろ!』
って積木を高く積み上げてみせたり(俺はそれ以
上に高く積んでやった)
『自分の名前書けないだろ』
って言われたり(漢字で書いてやったわ)

全て俺の方が上手に出来て、女の子達はさらにキャーキャー集まってくる。
あいつらは完敗状態だった……のに。
あるやつが思い出してしまった。
俺の弱点を…

ある日の自由時間。
園庭で遊んでいた俺のところにあいつらがやって来た。

『しょうくん、あれにのぼれる?』

指差されたのはジャングルジム。

『いちばんうえまでのぼるの、だれがいちばんかきょうそうな!』

にやにやしながら俺をジャングルジムに連れていく。
俺が高い所が苦手で1度もジャングルジムの天辺まで登った事がないのを知っていて言っているんだ。

『ぜったいしょうくんがいちばんだよ』

女の子達はさも当たり前の様に言うけど、ジャングルジムを見ただけで俺の背中には冷たい汗が流れた。

ジャングルジムの前に立たされ上を見上げる。

上までなんて登れない…こわいよ

身体はカチコチに固まって顔も強張っていたと思う。
そんな俺を見てやつらは笑った。

『しょうくん、こわいのぉ?』

やつらの馬鹿にした言い方にカチンとくる。

『こわくない!!』

負けず嫌いでプライドが高かった俺は
馬鹿にされたのが悔しくてジャングルジムに手をかけた。

『じゃあ、いくよ!よ~い、どん!!』

周りのやつらが登って行く。
俺も恐怖より負けたくないという気持ちが勝っていて、ただ上だけを見てどんどん登った。

結果、
『いちばん、しょうくん!』
1番に到着。

『しょうくんカッコいい!』
『やっぱりしょうくんがいちばん!』

女の子の黄色い声の中、『どうだまいったか!』と得意顔でやつらを見るとやつらは悔しそうに目をそらした。
完全勝利!もう嫌がらせも終わる!
そう思ったら嬉しくて益々どや顔になるw

そんな時『さくら組のみんな集まって~』と担任の先生の声が聞こえて、ジャングルジムの上や周りにいた皆は先生の所に走って行ってしまった。

1人取り残された俺。
ヤバい俺も行かなきゃって下を見てピシリと固まった。

『…………たかい……』

登っている時は夢中で気付かなかったけど、あらためて見ると結構な高さがあった。

どうやって降りたらいいの?!
どこを掴んでどこに足を置くの!?
誰か教えて!
って、誰もいないし!!
もうパニック!!
さっきまでどや顔だったのに半べその俺。
無茶苦茶かっこ悪い…


そんな途轍もなくカッコ悪い俺に優しく声をかけてくれたのが智くんだった。