お山の妄想のお話しです。
好きなもの。
春の日溜まり…
「翔ちゃん、また別れちゃったの?」
目の前に座ってバクバクとポテトを頬張りながら雅紀が言った。
ここは雅紀の高校と俺の高校の中間地点にある駅前のファストフード店。
2階の大きなガラス窓の横のボックス席で2人向き合って座りバーガーセットなんかを食べている。
「別れたって言うか、フラれた??」
「なんで疑問系なの?」
「だって、ごめんなさい、もういいですって言われて」
んん??ってちょっと考えて雅紀が言う。
「告ってきたのって彼女からだよね?」
「そうだけど」
「もういいですってどういう意味?」
「お試しだったからかな?」
学校帰りに待ち伏せされて、『付き合って下さい』と頭を下げられた。
いや、俺、あんたの事全然しらねぇし、なんなら初対面だし、付き合ってってねぇ…
断ろうとしたら周りの奴等が(一緒に帰っていた友人とか)お前マジふざけんな、と。
こんな可愛い娘に告白されて断るとかないだろ、どんだけ勇気を出して告ってるのかわかんねぇのかと責められて。
よく見れば確かに可愛い娘だった、どうかお願いしますって俺を見上げる目が潤んでいて眉が困ったように八の字になっていた。
俺はそのての顔に非常に弱い。
だから
『お試しでいいんです、お願いします』
という言葉に、お試しならと付き合う事にしたわけだけど…
「翔ちゃんさぁ、その娘とはどれ位付き合ってたの?」
「ん~?4ヶ月位かな?」
「それって、付き合って下さいからごめんなさいまでの期間?」
「そうだけど」
「その間何回デートしたの?」
「……2回かな、映画と水族館」
「ふぇ?!4ヶ月で2回だけ?!」
心底驚いたって顔で雅紀が俺を見る。
けど、俺からしたら2回もデートしたぞって感じなんだけどな。
「じゃあさ、連絡は毎日してた?LINEとか電話とか?」
「基本、あっちから来たら返すくらいかな」
「………………」
「いや、ナニその顔!哀れな者を 見るような!それやめろ!」
「翔ちゃんさぁ、頭よくてイケメンなのに人としてちょっとアレだよねぇ」
雅紀ははああとため息をつくと、真面目な顔で俺に言った。
「前から思ってたんだけど、翔ちゃんはどうしたいの?告られれば付き合うけどすぐに別れちゃうし、つき合ってる間だって自分からはなにもしないでしょ?まさか相手を弄んで楽しんでる?」
「んな訳ねえだろ」
あまりの言われ様に流石にムッとする。
「じゃあさ、相手のことを好きになろうって気持ちはあるの?」
俺のことを好きって言ってくれる娘、悪い気はしないから俺だって相手の良い所を探すさ。
「ある。いつも探す、それで見つける。今回の娘は潤んだ瞳が好みだったしはにかんだ笑顔だって可愛いと思った。でもな……」
その後の言葉は言えなかった。
『あの人とは違う』
どうしても『あの人』と比べてしまう。
そして思うんだ
『なんであの人じゃないんだ』
そうするともう駄目なんだ、好感をもてた表情や仕草だってくすんでしまう。
毎回それの繰り返し…
俺はあの人に捕らえられているんだ
俺の心の奥深い場所にいつもいる『あの人』
もう何年も会っていないのに忘れる事が出来ないひと
春の日溜まりのように温かく
優しく微笑む
『さとしくん』
俺の初恋のひと