当時は30代半ばを過ぎた頃、素振りの時間は、子育てや家事から解放される唯一の時間でもあった。


毎日10分と決めてはいたが、竹刀を三八にしてから、長いときは30分もいろいろ振っていた。


スタンダードな、上下振りや面小手胴、片手素振りや跳躍素振りはもちろん、


打ちが遅いと言われては、力ずくでめちゃくちゃに速く振ってみたり、


股割り素振りもやった。


それでも、左の肘は伸びなかった。


もちろん、面の位置で静止しているときは伸ばせる。


振りかぶって振り下ろすと、もう右腕しか伸びない。


どうやら、私の脳は、「打て!」という命令を、右腕に出しているみたいなのだ。


右手打ちを直すということは、この命令を左腕に出すことなのではないだろうか。


右手じゃないよ、左手だよ、と、脳に教え込むには、両手で素振りをしていながら、右手を握らなければよいかもしれない。


よし、右手はパー。左手はグー。これで竹刀が振れるようになろう!


実際に振ってみると、筋力不足の左腕は頼りなく、右手は勝手に握ろうとして奇妙な動きをした。


それが面白くて、笑ってしまった。


左腕に筋力がついてしっかり片手で打てるようになり、右手が勝手に握ろうとしないで手刀のように動くまで、繰り返せばよいのだ。時間はかかるだろうが、これは有効だ。


そして、この素振りは、私にとって、右手打ち克服のための最初の一歩になる、大切な素振りになった。