「俺はこのリング。」
そう言って翔平は右手を見せる。
「やっぱりな。
そうだと思っていたよ。
望月さんがいつもしてたの知ってたからな。」
剛の何か言いたげな視線に気づかない振りをして続ける。
「望月さん、俺って人間をよく知ってた。
もしかしたら俺よりもわかっていたかもしれない。
足立さんは、二人はよく似ていると言った。
もっと自分を好きになれとも言った。」
「確かにずっと前と比べて翔平、変わった気がするよ。
見えてきたってことかな。
それまでだって一緒にやって来たんだから、ある程度のことはわかってたし、信頼していた。
だけど、誰にも踏み込ませない場所があった。
今は、翔平が何を思い、何を悩んでいるのか、少しはわかるようになった。」
隆の言葉に二人が首を縦に振る。
「俺だけが望月さんを好きだと思ってた。
お前たちも同じだったんだな。
足立さんが前に言ってたんだ、
『亜美を知ってるヤツはみんな亜美のことが好きなんだ。
男とか女とかそういうことで分ける必要のない特別な何かをアイツは持ってるんだ。』
今ごろになってやっとわかったよ。
望月さんは俺に心をくれた。
俺はずっと自分の気持ちを持たずに生きてきたんだ。
自分の気持ちを知ること。
人の気持ちを思うこと。
そういうのって、一番大事なことじゃん。」
亜美のファンは今でも増え続けている。
彼女が創る世界は今の若者達にも受け入れられている。
時代は変わり、今の子たちの考えていることは理解できない、と世の中の大人たちは言う。
確かに、そんなところもある。
だけど、心の一番奥の部分は変わっていないのかも知れない。
だから『高宮涼子』宛に手紙が届くのだ。
メールではなく『手紙』が・・。
その手紙を本人に渡すことも出来ず高橋は大きな箱に集めている。
それもいっぱいになりそうだ。
いつか亜美に会うことがあれば渡したいと思っているのだ。
封を開けられることもなく眠り続けている思いを、やっぱり届けてやりたいのだ。
『高宮涼子』の代りに自分が・・そうも思ったがそれは違う気がしてずっと預かり続けている。
フランスからたった一度一枚の絵ハガキが届いたきりなのだ。
どうしているのだろう・・。