誰かと別れることをこんなにも淋しいと思ったことはなかった。


何が起こっても大きく気持ちを揺らすことなく、よく言えば穏やかな日々を送って来た。


そう望んでいたわけでないが、嫌で仕方なかったわけでもない。


「一・二年もすれば帰ってくるよ。


その頃はきっと、日本中の若者たちがお前の名前なんか皆が知ってて今みたいに気楽に飲んだりできなくなってるかもな。


ガンバレよ。」


そんな日が必ずやって来る、とでも言うように智也は自分のグラスを翔平のグラスにカチンとあてた。


「足立さん、怒らないで聞いてください。


俺は、望月さんが好きです。


こんな気持ちになったのは初めてです。」


翔平は自分の気持ちを正直に打ち明けた。


「知ってたよ。


そうだろうと思ってた。


前にも言ったけど、亜美を知ってるヤツはみんな亜美が好きだって・・。」


「そんなんじゃなくて、多分・・一人の女の人としてです。


だからと言って、どうしたいってわけじゃないんですけど。」


智也の前で不思議なほど素直になれる自分に翔平自身が驚いていた。


「亜美を残してフランスに戻った時も、お前がいたから安心だった。


亜美の気持ちを知ってて、俺は自分の我儘を通した。


だけど、亜美の気持ちは別として、俺の気持ちは決まっていた。


彼女以外は考えられないって。


空港で奈穂を見た時、すごく嬉しかった、感動したよ。


俺が亜美に支えられているんだ。」


「俺は、望月さんのような人に初めて出会いました。


話していると、まだガンバレそうな気がしてきたし、いい加減な自分にも気が付いた。


そして、いつの頃からか望月さんの心がわかるようになりました。


きっとその頃でしょうね、好きって気持ちが育ち始めたのは。


俺の心が今までの穏やかさを失くした。


だけど、望月さんには、足立さんがいた。


俺は、足立さんに勝てないことも知っていた。


足立さんの心もわかったから。」


「へ~、そんなことを考えていたのか。


音楽で世の中に出て行くことしか考えていなかったお前が・・。


いい歌を歌えよ。


聞いているヤツらにもきっと伝わるよ。


心が重なるよ。


亜美と奈穂とフランスから応援してるから。」


智也という人間の大きさを翔平は感じていた。


この人はどうしてこんな風でいられるのだろう。


単に大人だからではない、そのことだけは漠然と感じていた。


「いつフランスに?」


「俺は来週。


亜美たちは準備が出来次第ということになっている。」


それから四日後、智也はフランスに戻った。


亜美は毎日忙しくしていた。


マンションの片づけ、パスポートの取得手続き。


小さな奈緒を連れているのだ、何倍も大変に決まっている。


それなのに亜美の姿は誰が見ても楽しそうに見えた。