いつもギリギリのところで音楽をやって来た翔平たちにとって、今が踏ん張りどころ。


四人でずっと一つの夢に向かって歩いてきた。


今までとは何かが少しずつ変わって来た。


生活が変わり周りの人たちが自分たちを見る目が変わった。


これまでずっと多くの人たちに自分たちの音楽を聞いてもらいたい、そう思いながら頑張って来た。


そして今、その先の伝えるということについてそれぞれが考えていた。


聴いてくれる人が、辛い時には寄り添っていたい。


落ち込んでいたらガンバレと応援したい。


ただ隣にいるだけで落ち着く友のようなそんな存在になりたい。


誰もがきっとそうだろう、楽しい時や、物事が調子よく運んでいる時は誰といても上手くやって行けるモノだ。


大切なのは、何をやっても上手くいかなかったり、辛い時は誰でもイイってわけにはいかない。


友人であったり、恋人であったり、そんな寄りかかれる場所の一つに自分たちの音楽があればと思っていた。


周りがどう変わってもこれだけは曲げずに続けたいと思っている。


翔平はこの時、亜美の気持ちがほんの少しわかった気がした。


彼女は、もう一人の自分に認められるように生きているのだ。


あんなに温もりのある音楽を届けている『高宮涼子』が自分のことが嫌いだったなんて信じられない。


人間はそう簡単に変わることなんて出来ない。


それでも自分を変えたかったのだと翔平は思った。


誰だって自分のことが大切なはずだ。


それは、自分が好きだからなのだろうか。


ラクに生きて行くためとか、面倒なことに拘りたくないとか、そういう事のために自分を安全な場所に置いておきたいのだ。


自分の嫌なところを含めた全部を受け入れられた時、やっと好きになれる。


亜美はそう思ってるのだ。



翔平はスタジオで曲を創り詩を書いていた。


一人の時はここにいることが多い。


仲間たちは、遊びに出かけたり、彼女とデートだったりと休みの日を過ごしている。


翔平は自分のことを真面目な人間だと思ってはいない。


遊ぶときは遊ぶし、騒ぐときは騒ぐ。


ただ、今は自分の中で大きく膨らんでいく感情と付き合うことで精一杯だった。


翔平は今まで生きてきた中で、好きになった人を無理やり諦めたことなど一度もない。


彼女を好きな気持ちを自分の心の中に閉じ込めるということは、頭で考えるよりずっと難しかった。


彼女を困らせたくないと言いながら、本当は自分のためなのかもしれない。


ボロボロになる自分を見たくないのかもしれない。


そんな自分を責めたりもした。


どうすることも出来ないまま、このまま歩いて行くしかないのか。


翔平はこれまで何人かの女の子と付き合ってきた。


時には嫌いでなければ付き合っている間に好きになるかもしれないと相手の女の子に言われて、渋々付き合い始めたこともある。


周りにいるカップルと大差はない。


でも・・、必死に誰かを追いかけたことも、無条件に誰かを信じたこともない。


誰かが傷ついたとしても一緒に居たいという熱い気持ちには不思議となったことが無い。


慣れていたのとは違う。


本当に人を好きになったことが無いのかもしれない、そう思った。


翔平の中でも少しずつ変わってきていた。


亜美に対する気持ちもその一つといっていい。


どれだけ頑張ってもどうにもならない恋があること。


それでも戻れない気持ちがあること。


今まで経験したことのない心の痛みを感じていた。


こんな気持ちを持たずに生きてきたのか?


恋の歌を歌いながら、わかったような顔をしていたのだろうか。


急に今の自分に自信が持てなくなった。


彼女はなぜ、こんな自分を応援してくれているのだろうか。