亜美は昨夜のことを考えながら部屋でぼんやりしていた。


来客を知らせるチャイムの音。


「お届けものです。」


「ありがとう。


ご苦労さまでした。」


印鑑を押そうと顔を上げて驚いた。


「キミは昨夜の?」


「あっ、はい。


いろいろくだらないことを話しちゃってすみませんでした。」


照れくさそうに頭を下げる。


「バイト?」


彼は額を流れる汗を腕で拭いながら答えた。


「空いた時間は少しでも稼がないと、暮らしていけなくて。


夜は仲間と一緒に練習したいですから。」


「そう、頑張ってるんだね。」


「好きで始めたことですから、簡単には諦めたくないんです。」


昨夜は迷っているのだと言っていたが、心の底では捨てたくないのだと彼の姿を見てそう感じた。


「ねえ、もしよかったら、その音楽聞かせて?」


亜美のその言葉に少し驚いた顔をした。


「私、何かおかしなこと言ったかしら?」


「いえ、今までそんなこと言われたこと無かったから。


誰かに聞いてもらえると思うと嬉しくて。


今日の夜でもイイですか?」


「それは大丈夫だけど、随分急だね。


じゃあ、待ってるから。」


何言ってるんだろう、あんなこと言ったりして。


なぜだかわからないが、初めて会った時の彼の瞳の輝きが妙に亜美の心を引き付けた。


多分・・、夢を持ってるということだろう。


何年か前の亜美に似ている。


あの時、彼の背中を押したのだとすると、その裏側で別の道を歩くことになった誰かがいたのだろうか。


智也と亜美がそうだったように・・。