隼人は眠っている。
二人はいつもそうだった。
隼人が眠っていたり、沙耶が眠っていたり、すれ違いばかりだった。
沙耶は隼人を起こさないようにベッドに入る。
(隼人の寝顔、可愛いな。)
隼人はゆっくり目を開けた。
「ゴメン、起こしちゃったね。」
「起きてたよ。
沙耶のこと考えてた。
もうすぐドイツに帰るんだろ?
ずっと向こうで仕事するつもりなの?」
「そこまでは決めてない。
両親が帰国する時、一緒に帰るかもしれないし、そのまま一人で残るかもしれない。
結局、どこででも生きられるし、どこででも生きられない、それが私よ。
でも、心配しないで。
こんなことは二度としないから。
隼人には、もう二度と会えない気がする。
どこかでバッタリ・・ってのも無いな。
私、大丈夫だから。」
「俺、七年前のあの夜、オマエを抱いたこと、ずっと後悔してきた。
他の女を抱いてもそんなこと一度も無かったのに、不思議だよな。
俺だって外でいろんなことyってるくせに、ここに戻ってきて沙耶がいないと、どこで何をしてるのかすごく気になる。
あの時、俺はオマエが好きだったわけじゃない。
そんな気持ちで沙耶を抱いたりしたらいけなかったんだ。
こんな風なことをいつも思ってたわけじゃない。
女を抱きながらたまに思い出すんだ、あの夜のことを。
今まで、その女だから抱いたってことは無いんだ。
抱いてやれば女は喜ぶし、俺だってそこそこイイ目に合えるわけだしな。」
「隼人、私が隼人を忘れられなかったのは、あの夜のせいじゃないよ。
気にしないでってあの時も言ったでしょ。」
本当のことだった。
たった一度のことを忘れられないんじゃない。
三年間の思い出が消せなかっただけのことだった。
「沙耶がここに来たいと言った時、絶対にオマエを抱くまいと心の中で決めていた。
でも、それが今グラグラ揺れている。
沙耶を・・抱きたい。」
「・・・。」
朝が来れば必ずやって来る『その日』が二人には見えていた。
沙耶は隼人の腕の中にいた。
「沙耶、ドイツになんか帰るなよ。
ここで一緒に暮らさないか?」
思ってもいない隼人の言葉だった。
素直に嬉しかった。
「隼人の気持ちは嬉しいけど、それはできないよ。
私は向こうで仕事だってしてるんだから・・。
私のこと、可哀そうだと思ってるんでしょ。
心配してくれなくて大丈夫だから。
今までだって、ちゃんとやって来れたし、今度のことで私は自分とちゃんと付き合っていけそうな気がしてるから。
私たち二人には、同じ未来なんて無い。
別れが見えてくると最後に一つや二つ盛り上がったりするモノだよ。」
沙耶の言っていることもわかる。
だが隼人は今、心から沙耶を抱いていたいと思っていた。
こんな気持ちになったのはなぜだろう。
沙耶は特別な存在になったのだろうか。
一生懸命な沙耶の行動が、隼人の心を温めたのかもしれない。
隼人の心に何かを残した。
そんな時、沙耶は二度と会わない別れを覚悟していた。