少し遅くなった。


隼人は帰っているだろうか。


部屋には明かりが付いていた。


今日は早いんだ・・。


沙耶にとっては遅い時間も隼人にとっては早い時間になる。


「ただいま。」


「・・・。」


隼人は黙っている。


「今日は早いんだね。


シャワー、いいかな?」


「・・・。」


「隼人、聞こえてるの?」


「ああ。」


「どうしたの?


何かあったの?」


「別に・・何も・・。」


沙耶がどこに行っていたのか気になっていた。


そんな隼人の気持ちには気づくこともなくシャワーを浴びている。


「沙耶、身体はもういいのか?」


遠回しに聞いてみる。


「ありがとう。


本当にもう大丈夫。


調子いいから出かけたけど、少しはしゃぎ過ぎたみたい。」


「気楽なもんだよな。


散々心配させておいて。」


隼人は呆れた口調で言い捨てた。


意地を張ってないで素直になればいいのに、それが出来ないでいた。


自分の心の中で起こっている変化にうまく対応できないでいた。


そんなに気になるなら傍にいればイイのに・・、優しい言葉の一つくらいかけてやればいいのに・・。


沙耶はいつも隼人の傍にいた。


どうしてあの頃、気が付かなかったのだろう。


多分、他の誰より俺を見ていた、他の誰より俺を思っていてくれたんだろう。


今になって、ようやく気が付いた。


正直なとこ、沙耶を好きになりそうだったことがある。


でも、ちょうどその頃だった、例の噂が流れたのは・・。


それですぐに降りた。


沙耶は違ってた。


俺が誰と付き合っていようが、誰と別れようと、同じ距離で見てくれていたのだ、きっとあの三年間ずっと、変わらず・・。


俺が沙耶にキツイことを言った時、怒るというより寂しそうな顔をした。


あの時、沙耶がドイツへ発つ前の夜のことだって、俺を責めることもなく笑っていた。


隼人は今やっと沙耶の思いの深さを知った。


あの頃、一言好きだと言ってくれていたら、二人は上手く付き合って行けたのかもしれない。


隼人はそう思っていた。


隼人はいつもその時を生きてきた。


立ち止ったとしても、その周りを見るくらいで後ろを振り返ることをしない。


「隼人、少し話していい?」


シャワーを浴びて出てきた沙耶は思い切って話しかけた。


「どうぞ。」


気のない返事だ。