特にこれといって何かをしなくても、お腹は空くし時間は過ぎていく。


もう夕方。


隼人と二人で飲もうとワインなんか買ってきたりして、バカだな、飲んじゃおっ。


冷蔵庫にもたくさん入れたけど、ここを出ていくまでに片づけなきゃ。


妙な義務感があった。


残り物でもイイかと思ったが、ワインを飲むなら、もう少しと思って料理を始めた。


どれくらい時間が過ぎただろう、窓の外は暗くなっていた。


やっと出来上がった『それ』は美味しそうに見えた。


「いただきま~す。」


一人そう言って手を合わす。


そんな時、隼人は帰って来た。


「お帰り。」


「ただいま。


今から夕飯?


待ってたのか??」


「違うよ。


作るのに手間取ってこんな時間になっちゃった。


せっかくいろいろ買ってきたんだし、このまま腐ってももったいないから。


隼人はもう食べちゃったでしょ。」


「ああ。」


「じゃあ、いただきます。」


「それにしても、たくさん作ったな。」


「そうじゃなくて、たくさんできちゃったんだよ。


しばらく毎日これかもね。


でも不思議よね、何もしないでここに座ってるだけでもお腹は空く。


あっ、美味しい。


成功・成功、食べてもイイよ。


このワインも・・。」


こんな風に無邪気に笑う沙耶を見たのは初めてだった。


こいつ、こんな風に笑ってたかな、あの頃・・。


「じゃあ、少しだけ。


・・美味い、料理得意だったの?」


「向こうでいろいろやったから。」


「何やってるんだ?」


「出版社で働いてる。


取材にも行くし雑用もしてるよ。」


「楽しいか?」


「うん。


楽しく思えるように頑張ってる。


ねえ、隼人、『頑張る』って一体何だろう。」


沙耶が言った。


「沙耶は見つけたんだな。」


「まだ探してるよ。


何かを忘れるための仕事じゃなくて、誰かを忘れるための付き合いじゃなくて、本当に純粋にぶつかって行ける何かを・・。」


隼人は沙耶がこんなことを考えながら生きてるとは思ってなかった。


「頑張るって一体なんだろうね。」


沙耶はもう一度呟いた。


俺は何を頑張っているだろう。


何も頑張っていない。


何か目標があればそれに向かって進んで行ける。


今は特別な『それ』がない。


でも、頑張らなくても毎日を過ごして行ける。


とても簡単に・・。


今のこの生活で気づいていた。


沙耶はどうなのだろう。


さっきの様子からみると、今の自分を否定しているように受け取れる。


あの無邪気な笑顔の裏に全く別の沙耶がそこに居た。


あの頃から探している何かを今も変わらず探しているのだろうか。


目標なんて別に持っていなくても生きて行けることを認めたくないのか。


沙耶は何もない自分を責めながら毎日を過ごしてきた。


その反面、そんな自分を見ないようにギリギリのところに自分を追い込んでいた。


「沙耶、一つ聞いてイイか?」


「どうぞ。」


「今日、店にアイツが来たぞ。」


「知ってる、ここにも来たから。


ゴメンね、仕事場行くなんて反則よね。


私も人のことは言えないけど・・。


何か言ってた?」


「アイツ、兄貴だろ。


店の女の子たちが騒いでたから聞いたんだ。


ウソつくなよ。


あの頃からずっと続くはずだよな、兄貴ならさ。」


「ウソ?


みんなが勝手にそう言ってただけで、誰も確かめた人はいなかったもん。


誤解されてたとしても、都合悪いこと何も無かったし。」


「そういうところが俺には理解できない。」


「私のこと、何もわかってないでしょ。


興味も無いわけだし。」


沙耶はそう言って笑う。


そんな時、隼人の携帯電話が鳴った。


「俺、ゴメン、ちょっと急な用ができちゃったから。


これから行くから待ってて。」


そう言って隼人は急いで出て行った。


隼人は何しにここへ戻ってきたのだろう、約束があるのに・・。


まあいい、そんなこと考えてないで、早く片付けて休むことにしよう。


沙耶は片づけを始めた。


また一日、終わってしまった。


時間がもっとゆっくり過ぎればいいのに・・。