「誰?
知ってる人?」
馨が言った。
「同級生。」
沙耶はそう答える。
「こんにちは。」
馨が隼人に向かって声をかける。
「こんにちは。
じゃあな。」
隼人はそっけない。
「ねえ、時間ない?
話したいんだけど・・。」
沙耶が歩き始めた隼人を追いかけてそう言った。
「でも俺、仕事あるから。」
「夜、夜だったら時間ある?」
そう簡単に引き下がるわけにいかないのだ。
「俺、これからここにいるから 、ここに来れば・・。」
そう言って例の名刺を手渡して行った。
「沙耶、お前が好きだったヤツってアイツか?」
「まいったな~。
馨には何でもわかっちゃうんだね。」
「ここだよ、いい店だろ?
俺も最近、見つけたんだ。
何か落ち着くだろ?
この雰囲気。」
「うん。」
見せの中は静かでコーヒー豆の香りが二人を迎えた。
入り口の真正面の大きな柱時計。
「あるんだね、こんな大きな時計。
ずっと小さかった頃、どこかで見たような気がする。
どこだったんだろう。」
「沙耶のすぐ後ろでボーン・ボーン・・って二度鳴って大泣きしたアレだろ?
アレって家族で旅行した時だったよな。」
「お決まりですか?」
「俺はミルクティーとチーズケーキ、沙耶は?」
「レモンティーとイチゴのケーキをお願いします。」
「かしこまりました。」
「変わらないよな、小さい頃からイチゴのケーキ好きだったもんな。」
笑いながら馨が言う。
「もー、変なことよく覚えてるんだから・・。」
馨には沙耶と過ごした幼い日の記憶がはっきりとある。
小学生の沙耶、中学生の沙耶、高校生の沙耶・・。
自分のことよりも沙耶のことを一番に大切にしてきた。
沙耶が本当の妹でない記憶もぼんやりとあった。
ある日、父親は赤ん坊を抱いて帰って来た。
「馨、お前の妹だ。
名前は沙耶、よろしく頼むぞ。」
そう言った。
五歳の馨にはそれで十分だった。
嬉しい気持ちが湧き上がるのを感じた。
・・遠い昔のことだ。
「さっきの話の続きだけど、アイツはやめとけ。」
「どういうこと?」
「昔のアイツはどうだったか知らないが、今のアイツは沙耶を傷つけることはあっても、その反対は無いぞ。」
馨の言っていることは、多分正しいと思った。
「そうかもね。」