「志保、来てくれたんだね。


ありがとう。


じゃあ、元気でね。」


「沙耶も元気でね。


メールするから。」


「うん。」


結局、沙耶は何も持たずに行ってしまったと志保は思った。


寂しとか辛いとかも通り過ぎて、本当に何も持たずに。


沙耶の力になれなかったことが悔やまれて仕方がなかった。


でも、沙耶は何度も繰り返し言ってくれた。


「志保と友達になれて良かった。


楽しかったこの六年間を絶対に忘れない。」と。


この言葉にどれだけ救われたか知れない。


だけど、自分が救われたって何にもならないと思った。


そして飛行機は離陸した。




沙耶は自分で自分が嫌になった。


こんな自分とずっと付き合っていかないといけないなんて・・。


でも、その反面これで少しはラクになれるとも思った。


新しい自分になればいい、そう思うことにすればいい。


忘れてしまいたいと思っても忘れることなんてできない。


でも、少し離れたところに置いておくことならきっとできるはず。


時が過ぎて、様々なことを受け入れることが出来るようになった時、取りに行けばいい。


その時には、あれほど苦しかったことも懐かしく思えるようになっているかもしれない。


いつだったか志保は言った。


「ドイツで暮らすなんて誰にでも経験できることじゃない。」


これがチャンスだとしたら、きっと何かある。


そう自分に言い聞かせることで、何とか歩いて行けそうな気がした。


飛行機の窓から見える白い雲も味方に思えた。


沙耶は深く息を吸いフーっと吐き出した。