沙耶の心の中に馨に対して言葉にならない感情が生まれていた。


『妹』だと今まで特別意識したことは無い。


これまでと同じでいられるはずがない。


同じモノを取ろうとしてちょっと手が当たっただけで、思わず手を引っ込めてしまう・・こんなこと、今まで考えられないことだった。


馨が何と言っても、何も知らなかったあの頃には戻れない。


このことは、はっきりしていた。


沙耶は一人家を出てマンションを借り暮らし始めた。


馨はそれをただ見守ることしかできないことにもどかしさを感じながらも、何ができるのかもわからないまま日々を過ごしていた。


沙耶の部屋は、スッキリと片付いていた。


必要なモノがあるだけ。


年頃の女の子の部屋にしては寂しい感じがする。


そんな風なことを馨が言った。


「掃除だって簡単な方が良いでしょ。


モノが増えるとその分だけ大変になるのよ。


それに、ここには眠りに帰るだけだから・・。」


そう言った。




「迷惑かけてすみませんでした。


おかげさまで元気になれました。


これまで休んだ分、しっかり働きます。


よろしくお願いします。」


「待っていたよ。


沙耶、文章を書くことは好きか?」


「そんなこと考えたことありませんが、書くことが苦になると思ったことはありませんでした。」


「そうか、なかなか良かったよ、あの記事。


機会があったらまた書いてくれるかな?」


「はい、勿論。」


彼に頼まれて『命』の記事を書いた。


病院に行き医師の話を聞き、図書館で資料を集めた。。


あの日、沙耶は隠された事実を知ることになった。


あんなことさえなければ、今も何も変わらず毎日を過ごしているだろう。


沙耶は忙しく動き回っていた。


いつも馨のことを思っていた。


馨の気持ちを思っていた。


そして・・、気が付いた。


馨は事実を知って動揺しなかったのではなくて、何も無かったように見せていたのだということを。


今まで気にも留めていなかった馨の言葉の一つ一つが今になってとても重く感じる。


私のために・・。


ただそれだけのために・・。