「美佳、正直な気持ちはどこにあるの?」
知らない人に名前を呼ばれて顔を上げる。
人が近づいてくる気配なんて少しも感じなかったから余計に驚く。
一人はずっと前から知っているような懐かしい感じのする女子高生。
もう一人はバニラエッセンスの香りのするエプロン姿の女の人。
「誰ですか?
なぜ、私の名前を知ってるの?」
二人を交互に見つめながら頭の中で今の状況を整理しようとする。
「私は、美佳の十年後。
そして彼女は十七歳の美佳。」
見覚えのあるペンダントが彼女の胸にあった。
直樹からの誕生日プレゼント。
二人が別れた時、そのペンダントは小さな瓶に入れて波に預けた。
十七歳の美佳が言う。
「自分の未来を知るのは複雑ですね。
直樹と過ごす時間がそう長くはないなんてね。
でも、私はこれからも大事にする。
どうせ終わるのなら、どうなったっていいって風には考えられない。
これから直樹と私はどうなるのだろうかと考えていた。
二人のこれからにも興味があった。
その未来・・、直樹と終わって今の彼が出来たこともわかった。
だけど、譲れない。
私は直樹を失いたくない。」
「わかってる。」
二人が同時に言う。
「私は結婚して二人の子供がいる。
上が女の子で下が男の子。
夫はサラリーマンで穏やかで幸せな毎日を過ごしている。
子どもたちの笑顔を心の底から愛おしいと思い、夫が傍にいてくれることに安らぎを感じている。
その反面、後ろめたい気持ちがある。」
「後ろめたい??」
「そう。
私はこの生活がどうしても欲しかったわけじゃない。
三十って年になると考えてしまう。
この先の自分の生き方とか居場所とかをね。
ずっと引っかかっていた。
直樹と別れた場所に戻れたら私はどうするだろう。
雅哉にプロポーズされたあの時間に帰ることができたら・・。
同じ道を選ぶことが出来るだろうかと。
二人の生き方で私の人生は大きく変わる。
今のこの生活とは違った毎日を過ごしているかもしれない。
二人が諦めない勇気を持ち続け、悩んで苦しんでその結果選んだ道なら、その中で私は笑ってられると思う。」
「直樹と別れる時、別の道を行くことも勇気だと思った。
逃げたんじゃなくて選んで決めたんだ。」
「うん。」
二人は、本当にわかっているよと言うように美佳を抱きしめた。