駅から急行電車に乗って二時間余り。


ザワザワした街を離れ、のどかな町へとやって来た。


校舎の屋上で彼女を見送った後、将太が一つ頼みがあるのだと言った。


どうしても行きたい場所があるのだと・・。




辺り一面にヒマワリが咲いている。


広さはと言うと、三百坪くらいだろうか。


建売住宅だと、六・七件は建てられるだろう。


農家の野菜畑が延々と続く場所にヒマワリ畑。


「彼女、どう思う?」


将人が遠くに見える女の人を指して言う。


麦わら帽子をかぶった小柄な人。


「あの人、誰?」


亮太が将人の顔をのぞき込む。


「彼女と、付き合っていたんだ。


薫というんだ。


僕が突然あんなことをしてしまって、彼女の心はあの日から前に進んでいない。」


薫も本当はわかっている。


将人はもうこの世界にはいないということ・・。


それを認めて歩き出すことを拒んでいる。




薫はそこから山側に少し行ったところにある自分の育った施設で働いている。


高校を卒業したら就職して、新しく自分の居場所を作ろうと決めていた。


将来は通訳になりたいと思っていたので夜はそのための学校に通うことも頭の中にあった。


だが、将人を失った時、自分の未来を捨てた。


夏の花といえばヒマワリ。


七月二十四日、薫の生まれた日。


置き去りにされた籠の中に生まれた日と名前を書いたメモが添えられていた。


将人と知り合って間もない頃、自分の生い立ちを話した。


「そう、えっ、もうすぐジャン、誕生日。


ほら、行こう。」


薫の手を取って将人は歩き始めた。


横断歩道の点滅信号を駆ける。


少し行くと足を止めた。


そこは、花屋。


ドアを開けて中に入った瞬間、花のイイ香りがする。


ガラスケースの中にはキレイな花が何種類も並んでいる。


「ここのヒマワリ全部下さい。」


そう言った。


エプロンドレスを着た目のパッチリした女の人が慣れた手つきで花束を作る。


「ほら、誕生日おめでとう。


夏はやっぱりヒマワリだよな・・、って本当はバラとチューリップとヒマワリしか花の名前知らないんだ。」


照れくさそうにそう言って笑う。


「ありがとう。」


薫はそれに続く言葉が見つからなかった。


将人に出会ってたくさんの初めてを経験した。


ずっと一人で生きて行くことだけを考えてきた。


まだ高校生なのに。


いや、そうじゃない。


幼い頃からずっとそうだった。


今、近くに信頼できる人がいる喜びを感じていた。


そんなある日、将人は飛んでしまったのだ。