「あれ?


あの子、飛ぶ気かなぁ?」


将人は校舎の屋上を指して言った。


テレビドラマで見るような場面。


慌てて屋上まで駆け上がる。


「ちょっと待って。」


息を切らしながら亮太がどうにか言葉をかける。


驚いて振り返る彼女。


そのひどく弱い目の光。


亮太は「ちょっと待って。」の続ける言葉を探すが見つけることができず黙ってしまった。


彼女の目から大粒の涙が一つこぼれた。


「ねえ、キミ、そんなに飛びたいなら飛びなよ。


僕が一緒に飛んであげる。


何も心配しなくて大丈夫だよ。」


将人が静かにそう言う。


その言葉にすかさず亮太が大声で叫ぶ。


「誘ってどうするんだ。」


かなり興奮している。


「彼女だって考え抜いてここに来たんだ。


今さら、やめられるわけないだろ?


それとも、彼女のこれから先の辛いことや哀しいこと全部を、亮太がどうにかしてやれるのか?」


「そう言うことじゃないだろ。


将人、オマエは間違っている。


さっき、言ってたじゃないか・・『急ぐ必要は無かった。』って。


俺はオマエと一緒に同じ時間を過ごしたかったよ。


アイツらのようにソフトをしたりサッカーをしたり、好きな女の話や将来の夢の話を。」


将人は黙った。


亮太の言葉が痛かったのか。


「僕が屋上に立った時、亮太はいなかった。


僕は飛び、命は消えた。


自分を傷つけて愛する人を傷つけて、僕が手にしたものなんて一つも無かった。


どんな事情があるのか、僕にはわからないけど、全部ナシにしようなんて思ってるならそれは間違いだ。


一つの命が消える事実。


残された人がどれだけ傷つくのか、これから先ずっとその重荷を背負って生きていくんだぞ。


もう一度よく考えて、それでもやっぱり気持ちが変わらなければここに来て僕の名前を呼べばいい。


その時はもう止めない。


一緒に飛んであげる。」


冷たく言い放った裏側で彼女の命を守りたいと思った。


不本意だったとは言え、生きることを投げ出した時、誰かを受け止めることも支えになることも失くした。


無力の自分を感じていた。


彼女は小さく頭を下げて行った。


「本当は死にたくなかった。


夢でないなら飛んだりしなかったさ。」


将人の声が心なしか震えているのを感じた。


気まずくて真っすぐに彼を見ることができない。


「亮太、今の僕を見ろ。


自分で死んでいくってことは、こんなにカッコ悪いことなんだ。


惨めな僕を見ろ。


生きるってことは、素晴らしいことだぞ。」