マンションの駐車場を出て車は大きな通りの交差点の赤信号で止まる。


その横を学生たちが通り過ぎる。


「あれ、奈緒じゃん。」


車の中の奈緒に将太が気づく。


「えっ?」


優斗がッ将太の視線の先に目をやる。


その隣で和彦がボソッと呟く。


「あの人は・・。」


「知ってるのか?」


立ち止って将太が聞く。


「俺の姉貴と付き合ってた人だ。」


「えっ、病気で亡くなったと言うあの綺麗なお姉さん?」


「ああ。」


いつもは無駄なことをずっと喋りつづけている和彦の口が重くなる。


「古川さんが優斗の元カノとね・・。」


「何か気になる言い方だな。


出来たら話してくれないか?」


「ごめん・・。」


「そうか、悪かったな。」




当時、和彦の姉、沙織は古川と付き合っていた。


この二人の付き合いを周りの友人たちは温かく見守っていた。


羨ましいほどの素敵なカップル。


進路を決める高三の夏休み前、沙織は突然別れたいと古川に告げた。


「私、卒業したらドイツに行こうと思ってるの。


ヴァイオリン諦めたくないんだ。」


「うん。


俺も応援してるから。


だけど、別れることとは関係ないと思うんだけど。」


「ごめんなさい。


竜に心を残したままドイツに行くのが辛いの。


全部手放してヴァイオリンだけ抱いてドイツに行きたいの。


竜、お願い、私のわがまま許して。」


沙織のしっかりとした強い思いが伝わってくる。


真っすぐ見つめて一言一言。


そんな風に言われると、もう返す言葉は一つしかない。


「わかったよ。」


それからしばらくして沙織は学校に来なくなった。


待ちきれなくて早々とドイツに行ったのだと思っていた。


沙織のいなくなった学校生活はもう古川にとって何の意味も無かった。


それでも、別れは辛かったけど、沙織が夢に向かって歩いているのなら自分もちゃんと生きて行かなければ・・そう考え始めた。


多分、父の事業を手伝うことになるのだろう。


今のうちにできることは一つでも多く学んでおかなければ・・。


大学に入ってしばらくしたある日、偶然に耳にした沙織のこと。


「まさか亡くなってたなんてね。


ヴァイオリンの勉強にドイツに行ったとばかり思ってたけど、あれって病院に入ってたんだって。


母にそれを聞いて、沙織の家に線香をあげに行ったの。」


「へ~、沙織らしいね。


私たちに心配かけたくなかったのね。」


「おい、それ、どういうことだ。」


学食で隣の席にいた男子生徒が突然立ち上がる。


「あっ、古川君・・。」


「沙織が死んだ??」


「古川君も知らなかったのね。


病気だったんだって。


わかった時にはもうどうにもならなくて・・。


学校に来れる限界だったのよ、あの頃。」


古川の頭の中は真っ白になって何も考えられない。