麻衣はあっけなく逝ってしまった。
雨が降って傘に気を取られて道路に飛び出してしまった小さな男の子を助けようとして・・。
病院に駆け付けた涼介に麻衣は言った。
「全部書きあがっていて良かった。
涼兄、ありがとう。」
突然の出来事に涼介は自分がどうするべきなのかわからないでいた。
けれど、一番驚いたのは麻衣だろう。
何の覚悟もしないまま・・。
自分があの時、麻衣が日本に帰ろうかと言った時、引き留めていなければこんなことになっていなかったのに・・、そう思うと自分を責めずにはいられなかった。
麻衣のこれからを全部奪ってしまった。
新しい生活を始めようと、晴れ晴れとした笑顔の麻衣がいつも涼介の頭の中にあった。
両親の悲しみは言葉を駆けることさえも躊躇われるほど深く、周りにいる人たちの涙を誘う。
麻衣の死をマスコミは美談として取り上げた。
彼女を知る人たちは驚きを隠せない。
尚は麻衣の死を心無いマスコミの記者に知らされた。
「あなたとの別れの傷を癒すために、彼女はドイツに行ったんでしょ?
事故だと言ってますが、実際のところはどうなんでしょうね?」
こんな非常識なことが平気で口にできるとは、何とも気の毒な人だ。
今まで何度も嫌なことを書かれて頭にきた。
今度のことはその中でも一番許せない。
それなのに怒りが沸き上ってこない。
そんなことは、もうどうでもよかった。
通りに面した店からは、これでもかというようにクリスマスソングが流れ、賑やかな飾りを施されたツリーが店先を飾る。
尚にはそれも関係のないことだった。
それでも毎日を泣いて過ごしてばかりはいられない。
張りつめた職場の雰囲気が辛うじて今の尚を支えている。
そんな尚がボロボロの心で向かう場所。
二人で暮らしたあのマンション。
長い一日をやっと終わらせやっと自分に戻る。
「麻衣、死んじゃうなんて、ひどいじゃないか。
二度と会えないなんて、ホントひどいよ。
別々の道を行くことを俺は納得した。
だけどそれは、二度と会わないことじゃなくて、またいつかきっと会えるってことに続いていたんだ。
会いたいよ。
会いたい。
会いたい。
幽霊でもなんでもいいから、会いたいよ。
ずっと会いたかったんだ。
こんなことになるために、俺は頑張っていたのか?
一番大事なモノを失って手にしたものって、一体何だ?
麻衣、オマエはこんなことになってしまって悔いは残ってないのか?」
いくら問いかけたところで返事は無い。