「ゴメンね、待たせちゃって。」
「いいさ。」
いつも麻衣が待っていてくれた。
そんなことを考えながら麻衣の帰りを待っていた。
「忙しいんだろ。
麻衣の小説読んだよ。
もっと早くに読んでいれば、今はきっと違っていたかもな。」
「どうだろう・・。
私、いろんなことがわからなくなってるの。
例えば、何のために書いているのかとか・・。
それは多分、好きだからなんだと思う。
でも、尚がいるから書けるんだ。
一緒にいる時も離れて暮らすようになっても、尚を好きだという私の心がいつも変わらずある。」
「麻衣、俺はオマエのことを傷つけてしまった。
今更こんなことを言う俺の神経を疑うかもしれないけど、やっぱり麻衣でなければダメなんだ。」
「尚、その言葉だけで十分。」
「それが麻衣の答えなのか?
今も俺を・・、そう言ってくれたじゃないか。
始めからやり直そう。」
「彼女はどうするの。
尚のことを本気で愛してるのよ。
彼女を傷つけることになるのよ。」
「それは仕方がないことだよ。
俺は、麻衣がいいんだから。」
「本当に勝手な人ね。
いつか尚が言ったんだよ。
『彼女を好きになったんだ』って・・。
だから私は自分がラクになれる道を選んだんのよ。
今まで一度も何かから逃げたことなんて無かったけど、初めて逃げる道を選んだ。
尚があんなこと言わなくたって、私はずっと気が付いてた。
尚が彼女の話もせずに黙って別れることができるズルい男だったら、今でも私は自信を持って自分の道を歩いていると思う。
だけど尚はそんな男じゃない。
その真っすぐなところは出会ってからずっと好きだった。
他にもたくさんいい所あるけど、私はそんなところが一番好きだった。
だからすごく苦しくなった。
心が泣くんだ。
尚を愛してるって・・。
でも頭がそれを否定する。
手は尚の温もりと感触を求める・・。
でも頭が彼女と暮らしている尚の姿を映し出す。
こんなことを繰り返しながら私は決心したんだから。
こんなこと尚に聞かせるつもりはなかった。
でも、このままじゃ私の気持ちが伝わらないから・・。
私は決めたんだから・・。」
「麻衣の気持ちはわかった。
じゃあ、俺の気持ちはどうなる?
俺だってオマエを・・。」
尚の言葉をさえぎって麻衣は言う。
「あの頃とは違うのよ。
二人ケンカもしたし、もう別れるって何度も口にした。
だけど、二人だけの問題だったから、仲直りも簡単だった。
今はそうじゃない。」
「俺だって、それくらいのことはわかってる。
俺のこれまで通り彼女と暮らせって言うのか?
麻衣に向かった気持ちを隠して、それこそ彼女に悪い。
彼女が納得するまで、麻衣はここで待っててくれるか?
俺が戻ってくるまで・・。」
「何を言ってるの?
これ以上もう話すことは無いわ。
帰って。
私、これから人に会う約束があるの。
準備するから・・。」
「麻衣・・。」
どんな風に思われても、もう一度、尚はそう思っていた。
どんなに格好悪くても大切なモノを失ってしまうよりはましだと思った。
「そんな尚を見たくない。」
逃げ出すように部屋を出た麻衣。
そして車を海に向かって走らせていた。
夕日が眩しい。
サングラスを手にした。
今日の麻衣には太陽の輝きがきつかった、もうすぐ日は沈む。
目を細めながらも進んでいく先に視線を移しながら走る。
普段ならそうした。
それが出来なかった。
こんな気持ちでここに来たことはなかった。
だけど、他に行く当てがなかった。