「遥、オマエは強いんだな。」
「そうかな・・・。」
「今日はありがとうな。
楽しかったよ。」
「私も。」
そう言って遥の家の前で別れた。
彼女の思いもかけない告白に何かを言ってやることもできないまま。
家に帰って少しは気持ちも落ち着いてきた。
遥はもう受け入れたのかもしれない。
仕方のないことだと・・。
実際、章吾に遥の心を知ることはできない。
いきなり目の前でそんな告白をされて、驚いたというほかに言葉が無い。
一人になって落ち着いてもう一度、遥の言葉を思い返してみる。
それなら・・余計に傍にいたいと思った。
もちろん、このまま彼女から逃げる道もあった。
仮にそちらの道を選んだとしても彼女は章吾を責めたりはしないだろう。
実際、そうしてくれることを望んでこの告白をしたのだから。
遥が受け入れてくれるなら、その最期の時まで一緒にいたい。
放課後の教室で二人は話していた。
いつもならホームルームが終わるとすぐに部室に向かう章吾だった。
この日はいつもと様子が違う。
廊下で友達と話したりして、教室に誰もいなくなるのを待っていた。
遥と話すために・・。
「駒沢君、この前はありがとう。
とても楽しかった。
そんな顔しないで。
私が、あんな話したからだよね。
病気なのは私で駒沢君じゃないんだよ。」
「だって・・・。
遥・・。
あれから俺もいろいろ考えた。
俺が傍にいることで遥が苦しむのならこのまま諦めた方がいいのかもしれないって。
でも今、遥は生きてる。
そう思うと、やっぱりここで引き下がれない。
本当の気持ちを聞かせて欲しい。
今の遥にとって俺は邪魔な存在なのか?
俺が傷つくことなんて気にしなくていいんだから。」
この時、心からそう思っていた。
俺には時間がある。
どんなに深く傷ついたとしてもそれを癒すための時間がある。
今は遥を思う気持ちを優先させたい。
それからしばらくして遥は返事をくれた。
「ありがとう。」
「それってO.K.ってことだよな。
そうだな。」
それから二人は付き合い始めた。
二人だけの秘密を抱いたまま。
章吾は遥の笑顔を見るたびにいつも思っていた。
もしかしたら・・このままずっと生き続けることができるのではないかと・・。
なるべく普通に日常生活をすることを医師はすすめた。
映画を観たりコンサートに行ったり・・、楽しい時間が流れた。
章吾は気が付いていなかったが遥にはわかっていたのかもしれない。
それからしばらくして病院に入った。
どんな時も明るい笑顔を見せてくれる遥がたまらなく愛しかった。
「章吾、これ読んでみて。
私の大好きな人が私のために書いてくれたんだ。
いつも笑っていられたのは夢が見られたからかもしれない。
私が何度も読んだから、こんなにボロボロになってしまったけど。
章吾・・、時間もう残り少ないんだと思う。
誰も何も言わないけど、何となくわかるの。」
「そんなことないさ。
また元気になれるって。
ガンバレよ。」
遥に言ってやれることなんて、こんなありきたりの言葉しかなくて・・。
「章吾、泣かないでね。
時間を気にして章吾と向かい合うことをしていなければ、今のこんな気持ちもしることができなかった。
これから先、私が章吾を苦しめてしまいそうな時には、思い出にしてどこか見えないところにしまっておいて。」
この時、初めて遥の涙を見た。
遥は俺のために泣いた。
自分がいなくなった後の俺の心を思って・・。
「俺に遠慮はいらない。
泣きたいときにはいつでも泣いたらいい。」
そう言いながら章吾の目からも溢れてくるものがあった。
あれから四年が過ぎたなんて。
麻衣の車は高速を走っていた。
安全運転だと自慢していた割には他の車がゆっくりに感じられる。
「ねえ、スピード出てるよ。」
「あっ、ごめんなさい。」
章吾はそう言ってアクセルをゆるめた。