「俺のせいで2人は違う人生を選んだんだな。
俺が2人の間に入ってしまったから。
あんな中途半端なことしないで、ずっと独りでいれば良かったんだ。」
周平は2人に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
本当に、陸とのぞみは似合いのカップルだった。
グランドでサッカーボールを蹴る陸を、多くの女子生徒達はじっと見つめていた。
陸の動作の1つ1つに彼女達のため息がもれる。
シュートが外れてがっかりしたところや、相手チィームにチャンスを奪われたときの悔しそうな仕草、そしてシュートが決まったときのあの満足そうで嬉しそうな笑顔。
そんな姿を2人はグランドをぐるりと囲むコンクリートの階段に座って眺めていたり、教室の窓から見下ろしていたりした。
「周平と出会わなければ2人は上手くいっていたのに・・、なんて俺は1度も思ったことは無い。
きっと、のぞみもだと思う。
のぞみは、俺の言葉を黙って待っているような女じゃない。
俺が言わなくたって、どうしても言いたければちゃんと言える女だ。
だからずっと友達でいられたんだと思う。」
「どこで何をしているんだろうな。」
「きっと元気だろうよ。
のぞみはどこに居たってな。
周平、いつまで日本に?」
「春菜の結婚式が来月の3日なんだ。
それが済むまで。
式の前に相手の男に会って、式に出て、旅行を見送って、それから帰るよ。」
「そのためだけに、戻って来たのか?」
「まあな。
あの頃も春菜は俺にとても優しかった。
両親が別れた時、まだアイツは3つだった。
再会した時、16になっていた。
突然現れた自分の兄貴だという男に対して、
『お兄ちゃん、お帰り。』
そう言って、真っ黒に汚れた小さなウサギのぬいぐるみを差し出した。
俺はガラにもなく胸が熱くなったよ。」
5歳の周平は眠る時、ウサギのぬいぐるみを枕元に置いていた。
昼間はおもちゃ箱に他のおもちゃと一緒に無造作に投げ込まれている。
眠る時はそれを探し当ててベッドにもぐりこむのだった。
出発の前夜、それをどうしても見つけることができず部屋の中を探し回っていた。
春菜が抱きかかえていた。
どうしても離さない。
母親は無理にそれを取り上げ周平に渡した。
勿論、春菜は大きな声をあげて泣いた。
「春菜にあげる。」
周平は言った。
あの時、小さな心で感じたのだろう。
もう明日からは一緒にいられないのだと。
最後に兄貴らしいことでもしておきたかったのかもしれない。
春菜が今差し出したのは、その時のぬいぐるみだったのだ。
「春菜ちゃん、結婚するのか。
美人になっただろうな。
あの頃だって人気あったんだから。」
「そうだったか?
まあ、性格の良さは俺も認めるよ。
どんな男か会ってみることにしたんだ。
結婚式で『初めまして・・。』なんて嫌だって春菜があんまり言うから。」
「周平、人間付き合いしてるんだな。」
「そりゃ~、もう子供じゃないんだ、『俺には関係ない。』てそっぽ向いてるわけにいかないことばっかだよな。
こんな人間になれたのも、陸のアノ一言のおかげなんだ。」
陸が周平に言った言葉。
ドイツに発つ日、空港のロビーで。
「もっと、真面目に生きてみろよ。
全部捨てたような顔してないでさ。」
本当にその通りだった。
全てを見透かされた。
図星だった。
「陸に何がわかる。
こうやってなけりゃ、俺は生きてられなかった。
温かいものに囲まれて育ってきたヤツには、俺の今までってのは決して想像することはできないだろう。
話したところでわかるはずがない。」
とても感情的に言った。
そんな周平の態度に陸はひどく驚いた。
でもその後すぐ、笑って言った。
「あるじゃん。
周平にも熱いモノが・・。
安心したよ。」と。