真っ赤な力でデストロイ -4ページ目

カシリ

マザーラットが産気づいたのは

それは古びた四畳半の手狭なアパート

般若のお面をつけた親族がぎっしり並び

彼女のcuntを眺めていました

沈黙の中にマザーラットのくぐもった声

誰かが咳払いをすると

遠くで雷がなりました

生殖の儀式が始まろうとしていたのです


しかし

マザーラットが股座から吐き出した胎児は

目の見えない奇形児でした

ショウリョウバッタのような肉塊の頭から

白濁した瞳が、縦一列に並んでおりました

マザーラットは、ぜいぜいと息を吐き

細い声で、私の赤ちゃん、と言いました


お面をつけた親族たちは

隠し持った棒きれを取り出すと

無言のまま、えいっ えいっ

みじめなショウリョウバッタを殴りました

えいっ えいっ えいっ えいっ

マザーラットも殴られました

ぼくはそれを

見ていることしかできませんでした

えいっ えいっ えいっ

お面をつけた親族たちは殴り続けていました

辺りには汚れた血がこぼれていました

白濁した瞳がぎょろぎょろと動き

細くゆがんだ前肢がびちびちともがく


兄さん、あんたの母は死んだ

母さん、あんたの腹のなかに留まったその

抗鬱剤の煮こごりみてえな父さんの精子は

こんなにもみじめなショウリョウバッタに

なって、いま棒でうんと叩かれているんだぜ

四角くとがったむきだしの敵意が、

円錐形のおれの頭蓋骨を

がつがつと叩いているんだぜ

聞こえるか兄さん、あんたの弟は、

ショウジョウバエの苗床になるために、

母さんの股座からまろび出たスクラップだ

聞こえるか兄さん、あんたの弟は、

便所のすみに雨ざらされたエロ本が

シュレッダーで裁断されたみたいな

顔面の昆虫大陸だったんだぜ



般若のお面がゆれ、棒が振るわれました

筒型の頭蓋骨がぐにゃりとまがり、

めっきの剥がれた鋼材みたいになりました

辺りには汚れた血がこぼれ出ていました

ロマンの家出

ロマンが家出した

雨の冷たい夜だった

何も持たずに家出した

凍え死んでしまうよ、ロマン


ぼくがぼくであることを期待され、

マッチ売りの少女に涙した、その

明晰夢のような思い出も、

ロマン、きみにはわかっていたんだね


ぼくが作り出したぼくは、

まるでよくできた自動人形

きみを殺さないための全機構が、

ぼくの中で痛々しくよじれる


爆死するピエロ、太陽のとろける海、

果てないメルヘンがあったとき

ロマン、ぼくは笑ったけれど、

きみはさびしそうに咳をした


砂浜に打ち上げられる錆びた歯車は、

あるいはきみの一部だったのかも

拾いあげれば血の色になって、

恥ずかしそうに溶けていった


雨が強まり、左手(ゆんで)が軋めく

はだしで逃げる、きみの足音

さよなら、ロマン


風が凪いだら探しにいこう

ぼくが殺したロマンの死骸を

心臓ヶ丘

夜の色が薄まる午前の世界体系に、ぼんやり折りたたまれた部屋のなか、誰かが言った、社会は不可視の怪物の気まぐれで巨大な意思だと、誰かが言った、世界は無味無臭の真実の上澄み液から精製されたドラッグのガンギマリ乱交パーティーだと、誰かが言った、いつの日か霧散してしまったきみの意思決定権たちは未だ外宇宙に置き去りにされたままだと、誰かが言った、ここにきみの最期の部品が埋まっていると、そしてここを心臓ヶ丘と名付けようと